Louez notre fondateur. 3
「僕絡みで何かあったんですか?」
カチャカチャと食器と箸がぶつかり合う音の中に帝人の声が異常に響いた。
静雄が今日の取り立て相手の勝手気儘な行動の数々を話す中に、帝人は気付いてしまった。
静雄の異様な歯切れのなさ。
快活とまではいかないが、感情豊かな静雄に覇気が感じられず帝人はポツリと言ってしまった。
僕に関して何かあったのか、と。
平和島静雄という人間は他人に対して尊大な存在に見えるが、彼自身の周囲にいるとりわけ比較的良好な関係を築いている人に対して異常な気遣いをみせる。
自身の力が制御できない長い時期の間に生まれてしまった、怯え。
自分の力で、自分に好意的な人々が傷つく姿を、彼は見たくなかった―――。
好意的な人々が周囲にいなかったせいもあって、身体への損傷云々に限らず、静雄は近しい人間に優しい。
それ故に、他人の心情を慮る節が静雄にはある。
ごくごく自然な行為のはずが、静雄は極端だった。
長い間、人と関わる術を知らなかった怪物ゆえの業か何かか―――。
帝人も例外無く、その内の一人。
「あ、いや何でもねぇ」
「何でも無くないです。元気無いし、いつもより会話の中に美味い言いすぎですし」
「あぁ?美味いって言っちゃいけねぇーのかよ」
「そういうことじゃなくて。会話続けるために美味しいって言ってるみたいだってことです」
「………気分悪くさせたなら悪りぃ」
「なってません。なってませんから」
何があったのか、教えて下さい。
***
(よく静雄さんの事務所に行きましたねぇ……。勇気のある人だ)
液晶画面に映る莫大な文字を見つめ、竜ヶ峰帝人は思った。
青白く顔を照らすパソコン画面の光のみの世界。
帝人は自身のアパートにある数台あるパソコンの内の、一番大きなデスクトップ型のパソコンに向き合っていた。
羅列される数字と、数々の言語が飛び交うネット上の一つにアクセスし、マウスを右手に、左手で頬杖をつきながら帝人の視線は動く。
(ま、昔は私に対してベッタベタに甘くて、何があっても教えてくれなかったんですけど。信頼されてるってことですかね?)
(……私に文句も言うし口喧嘩もしてくれるようになった静雄さんの成長には、及第点をつけないと)
夕食時――。
静雄の口から零れた言葉は、帝人を闇へ引きずりこむ。
昨日の晩、静雄が帰宅してから静雄の事務所―――田中トムが経営する会社があるビルに一人の闖入者が現れた。
その闖入者は、こう口にしたと言う。
(ダラーズのボスに会わせろ、か…)
(面白くなりそうだ……。私を楽しませてくれるのであれば、会ってさしあげましょう)
パソコンの電源を落とした帝人は、寝室へと足を向ける。
寝室のベットには、帝人を愛す者が眠っている。
夕食を帝人のアパートで過ごした日、静雄は自宅へ帰るのだが、今日に限って帰るのを渋った。
傍にいさせろ、と――。
傍にいる権利を俺は持っていると豪語した静雄は、帝人のベットで眠っている。
(そう、貴方は権利を持っている。私を愛し傍にいる権利を持っている人だ)
貴方は、私の愛、そのものなのだから。
End.
作品名:Louez notre fondateur. 3 作家名:ひじり