籠の華
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帝人は公園のベンチに一人座り、流れる人の波を眺めながら唄を口ずさむ。
かごめ、かごめ、
籠の中の鳥は、いついつ出やる
夜明けの晩に、鶴と亀が滑った
「後ろの正面だぁれ?」
ふわりと瞼に重なる小さな幼い掌。
帝人は口ずさんでいた唄を途切らせて、そっとその手に自分の手を重ねた。
あどけない笑い声が鼓膜を響かせる。
外された手の代わりに覗き込むのは帝人を愛でる唯一の少女。
「ただいま、帝人お姉ちゃん」
「お帰りなさい、茜お嬢様」
「だめだよ、お嬢様はいらないって言ったでしょ」
「・・・・茜ちゃん」
「うん」
少女は楽しげに笑い、帝人の前に立つ。
太腿に置かれた帝人の手を引っ張る。
「帰ろう、帝人お姉ちゃん」
「・・・ええ、帰りましょうか」
籠の中へ。
明日からまた変わらぬ日々がやってくる。
籠の中の華は少女の愛だけで生きてゆくのだ。
けれど、二人は知らない。
金色の狼に、真黒な鴉。
色の無い帝人の心の中にほとりと落とされた金と黒。
帝人は知らない。
じわじわと侵食していく色の脅威を。
帝人は気付かない。
色の無い自分が染められていく悲哀と畏怖を。
茜は知らない。
籠の華に纏う匂いの意味を。
茜は気付かない。
籠の入口に厳重に掛けた鍵を巧妙にそして力技で外そうとする二つの色に。
壊れた二人は気付かない。
ただただ今は、籠の中の華を愛で、そして愛でられるのみ。
(後ろの正面だぁれ?)