二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

籠の華

INDEX|2ページ/3ページ|

次のページ前のページ
 


****





少女は目の前に立った黒づくめの男を訝しむことなくただ見上げた。


「まさかここで栗楠会の御姫様のお気に入りに会えるとは。日ごろの行いが良いからかな」
折原臨也と知る人間からしたら全力で否定するようなことを言いながら、臨也は少女に近づく。少女は臨也の行動をただじっと見つめるだけだ。
硝子玉のような蒼い眸を覗き込み、臨也はその美しさに感嘆のため息を吐いた。
(これは予想以上の代物だ)
「こんにちは、竜ヶ峰帝人ちゃん」
「・・・・・こんにちは」
名を呼ばれ、少女―――帝人は一度だけ蒼い眸を瞬かせる。
臨也はにんまりと笑った。
「俺のこと知ってるかな?君の飼い主のお嬢様は静ちゃんの話はしてたらしいけど、さすがに俺の話題までは出さないか」
「・・・静ちゃん。平和島静雄さんのことですよね」
「そうだよー」
「貴方は、」
帝人の蒼と臨也の紅が交差する。
「折原臨也さん、ですね」
臨也の背筋をぞくりと何かが走り抜けた。
「・・・・知ってたんだ」
「はい。お嬢様からではないですけど」
「ふぅん。・・・まあ、見当はつくけどね」
臨也は周囲を見渡した。
「ひとり?」
「はい」
(なるほど、ただ閉じ込めるだけではないわけか)
籠で育てた華を、野に出し日に照らしひと時の自由と安穏を齎してから、再び己の元へと自ら戻ってこさせる暗い喜びが臨也には見えるような気がした。あのちみっ子も相当だよねぇと臨也が薄く笑うのを、帝人はぼんやりと見上げたままだ。
「これからどうするの?」
「お嬢様を待っているんです」
「へえ。じゃあ君の一時の自由もこれで終わりか」
臨也の言葉に、帝人はふと公園の外を眺めた。
自由。何を知って、何を以ってして、臨也がそう言ったのかは帝人は知らない。知るつもりもない。しかしその言葉が僅かに帝人の心の琴線に触れた。
「・・貴方から見て、いつもの僕は不自由だと思いますか?」
帝人の問いに臨也は僅かに首を傾ける。
「まあ、見解は人それぞれだと思うけども、一般的に籠に囚われて日がな外に出ることなく特定の人間としか会えないように過ごすのは異常だからね」
「・・・異常」
帝人は目を伏せた。
いつでもどこでも自分を呼ぶのはただひとり。小さな幼い手だけが帝人を愛でる。帝人の世界はそれだけなのだと伝えるように。
(ずぅっと一緒だよ)
それはあまりにも無邪気な狂気だ。
「・・・でも、」
帝人は零す。伏せた目を上げ、ひたりと虚空を見据えて。
「僕の望みでもあるならばきっとそれは慈しむべき愛でしょうね」
薄い唇が象った微笑みに臨也は一瞬呑まれた。
そして次に襲うのは、探していた何かと巡り合えたような歓喜だ。
(本当に予想以上だ!)
臨也は少女に一歩近づいた。
「初めは自己も意思も何も無い、鑑賞する相手の目を楽しませるだけの華かと思ったけれど、君はそれだけじゃないみたいだ」
臨也は揶揄するようにそう告げた後、真白な頬に指を滑らせ付け加えた。
「勿体無いなぁ」
君は素質を持っているのに。
男の本気の嘆きに、帝人は細い首を僅かに傾けた。素質とは何だろうか。ふと疑問に思ったが、聞くことはしなかった。疑問を問うという行為が帝人の中には存在しないのだ。帝人はただ幼き少女が与えるものを甘受するだけの華なのだから。透き通った蒼に見つめられ、臨也はもう一度「勿体無いなぁ」と吐息のように呟いた。
触れた指先が離れ難いと自覚しながら。
作品名:籠の華 作家名:いの