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Sweet kiss

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『Shall we do a sweet kiss?』



季節は人肌恋しくなり始める冬。外は雨。
いつもより少しばかり薄暗い生徒会室内にはしとしとと降り続く雨の音が響いているのみで、特段話すこともなく俺はいつものように机の上に積まれている書類の束の隙間からセーシェルの横顔を盗み見ていた。雨の音に加えて、時折セーシェルの鼻歌がこの耳に届くのみのその空間はなんなく体に心地よい。副会長であるはずのフランスは、雨だからという何とも理由にならない理由でさっさと家路についてしまっていたものだから、計3人しかいない我が生徒会のメンバーで現在黙々と仕事をこなすのは俺とセーシェル以外にいやしなかった。久しぶりの二人きりというこの空間に妙な緊張感を感じてしまっているのは…おそらく俺一人だけだろう。


「ねぇ、イギリスさん」


室内を流れていた沈黙が彼女のソプラノで紡がれた俺の名によってうち破られて、セーシェルがふいにこちらを振り向いた。慌てて視線を逸らす。
仕事そっちのけで見ていたなどとバレでもしたら、その羞恥は想像を絶するものに違いない。


「な、なんだよ…」


必死に動揺の色を背中に隠しながらセーシェルの呼びかけにそっけなく答えてやれば、適当に近くに置いてあった書類を急いで手に取って、そちらに己の意識を集中させた。内容など当然頭に入ってくるわけもないが、平然を装って紅茶を口に運ぶ。


「キスって甘いんですかね?」


あまりにこの場の空気を無視して斜め48°あたりに突き抜けたその発言に、自分の手にしていた書類が手のひらからするりと滑り落ちたかと思うと、同時に口に含んでいた紅茶を思い切り噴き出した。セーシェルの顔をまじまじと見つめるが至って真剣な表情で俺を見ており、その真意がいまいち掴めない。


「…ごほっ、こほ…っ、…なんて言った?」


「…汚っ、吐き出さないでくださいよー」


誰のせいだ、誰の…っ


「昨日、ハンガリーさんから聞いたんです。キスは甘いって言うけど実際は味なんてしないもんだって…」


「だからなんだってんだよ」


俺にこの話題を持ちかけてきたセーシェルの意図が読めずに、その様子を窺いながら口元にこぼれた紅茶を拭う。


「イギリスさんってなんか経験豊富そうじゃないですか」

作品名:Sweet kiss 作家名:もいっこ