Sweet kiss
「…や…っ、んっ…」
抗議の声を上げようと開いたその唇の隙間に自分の舌を滑り込ませて奥に逃げる舌を無理やり絡め取る。彼女のあごに指をかけてさらにその隙間を開かせればより深く口づける。俺の体を押し返そうとしていたその腕の力が徐々にゆるゆると抜けていき、気が付けば縋るように俺の制服を掴んでいた彼女の手に胸がかぁっと熱くなる。そっと薄目で覗いたその表情がひどく艶めかしいもので、欲情のままに口内の甘さを堪能する。逃げていた舌が抵抗をやめておずおずと絡みだしたことをいいことに、そのままスカートの裾へと手をかけた。吸いつくような肌に指を這わせながら、唇を首筋へと移動させるとそこに小さな花を咲かしていく。セーシェルの胸元のネクタイを緩め、いくつかボタンを外せば胸元が覗いて、そこにまた強く吸いついた。
「や…っ、い、いぎりすさん、まって…」
その制止の声に胸にうずめていた自分の顔を上げて、セーシェルの潤んでとろけた瞳と強く視線が交わったところで、ようやく自分のしでかした事の大きさを理解した。一気に顔が熱を帯びる。
「…わ、悪い…っ」
その熱を灯した乱れかけの体から手を放すと俺はその場に勢いよく立ち上がった。
「…ちょっと出てくる…!」
それだけ言い残して、すぐさま廊下へと飛び出ぜば、今更ながらに速くなっていく鼓動を落ち着けるように扉を背に深く呼吸を繰り返す。
「…っ」
…なにやってんだ、馬鹿か俺は…っ
その場にしゃがみこんで大きく溜息をつけども、耳に鳴り響く心音がとくとくとやけにうるさく俺を急かした。まだ降り続ける雨音を聞きながら、唇に残る柔らかな感触をぐっと指で拭う。
…紅茶の味だ。
そんな言葉が一瞬頭をよぎって、急いでかき消す。とりあえずどうにかして誤魔化さなくてはと、一人冷えた廊下で頭を抱え込むと、ひんやりとした空気が熱くなった己の体を冷やしてくれるまで俺はずっとそこに座り込んでいた。
*
その数分後、セーシェルが扉を開けたことによりその後頭部を強く打ちつけ、いつもの二人のやりとりが繰り広げられるとは到底思ってもいなかったわけだが…
そんなわけだから、この一件以来セーシェルと視線がぶつかるようになったと俺が気付いたのは、随分後になってからだった。
セーシェルは後に俺にこう言う。
作品名:Sweet kiss 作家名:もいっこ