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死ぬ前

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時計を見て焦る。約束した時間をとうに超して今は午後八時。
あの情報屋がおとなしく待っていてくれるだろうか、不安がよぎる。
周りはどこを見渡せどカップルだらけ。去年まではこういう日に浮かれている人たちを冷めた視線で見ていたけれど、
今年は僕もきっとこの人たちの仲間入りをするのだろう。
目の前の大道路を渡りきれば、目的のホテルだと思った瞬間信号機が点滅しだしてすぐに赤になった。

(しかもこんなに急いでいるときに限って信号赤だよ・・・)

とほほ、と思いながらポケットに突っ込んでいた携帯を取りだし、臨也さんの電話番号を押す。
ここは正直に謝っておこう。まぁ、あの人の生業からして僕の遅刻の理由なんてお見通しなんだろうけど。
ここでごねられたら折角用意してきたプレゼントが水の泡だ。出来たら今日中に渡したかった。
僕はショルダーバッグの中にある箱を無意識のうちに触っていた。

(臨也さん、喜んでくれるかな)

わくわくする気持ちと焦る気持ちのまま、携帯を耳につけたそのとき。
危ないという人の悲鳴に近い叫び声と、車のスリップオンがやけにスローモーションで聞こえた。
そして、目の前には車のスポットライト。
僕の頭は一瞬にして、あぁ死ぬのだと理解した。そして同時に臨也さんの笑顔が頭にちらつく。

(いざやさっ)
作品名:死ぬ前 作家名:霜月(しー)