死ぬ前
さて、待てど暮らせど帝人くんの来る気配がない。
窓際の席を予約して、そこからは綺麗に着飾られた一際大きな楠木が一望できる。
片肘をついて窓の外を見れば、そこら中にカップルだらけ。いつもの俺ならこうやって人を観察することに楽しみを見つけられるのに
(どうして帝人くんは来ないんだろう・・・)
携帯を開いて時間を確認する。午後九時前。補習に捕まっていたとしてもこれは遅い。
何かあったのかな、シズちゃんとかに捕まってるとか?それとも黒バイクに誘われてるとか・・・。
あぁ、あのいけ好かない後輩にせがまれているのかも・・・、でも。
それにしたって俺に連絡が無いのはおかしいよね。
(電話もメールも返信来ないしなぁ・・・)
先ほどからコールしても、メールを送っても何の返事もない。いったいどうしたというのだろう。
この風景を帝人くんと見ながら、俺が認めた料理に舌鼓を打ってその後はここのホテルに泊まろうと思っていたのに。
(んー・・・、それにしたって遅いなぁ)
そろそろコーヒーだけで凌ぐのがお腹のすき具合に見合わなくなって来たと思った瞬間、携帯のバイブが響く。
(帝人くん!・・・・はぁ?)
帝人くんだと思って開いた携帯には舞流の名前。一気に気分が急降下した。無視してやろうかと思ったが後が怖い。
しょうがなく、携帯のボタンを押す。
「もしもー」
「大変なんだよイザ兄!帝人先輩が!先輩がっ!」
俺が口を開こうとした瞬間、俺の声を遮って聞こえてきた舞流の声がとても切羽詰まっていて。
俺の本能が、直感が、最悪なことがあったと警報を鳴らす。