Marriage proposal
初めは路上で売られているクレープ。
子供は黙って大人に奢られなさいと言われ、子供扱いされたことへの複雑さと身内以外の大人の男の人に奢ってもらうシチュエーションに少しだけ気恥しさを感じたのを覚えている。
それからというもの、彼は帝人にいろんなものを与えてくれた。
まあ大半は苦学生の帝人にぴったりのご飯系だ。(それが一番帝人を喜ばせるのだ。色気が無いとその人には笑われたけども)
意外とこまめに、さり気なく、押し付けがましくないかと思えば少し強引だったり手段は様々。
もちろん帝人は今時の子にしては我儘の言わない子供で、毎回遠慮という名の抵抗をするのだが、そこは亀の甲より年の功。
大人は口八丁手八丁で経験値の無い少女を丸めこんだ。
それが何度も続き、暫くすれば少女の感覚もだんだん麻痺していく。
与えられるものがグレードアップしていっても気付けないほど。
そして帝人は忘れていた。
男は確かに帝人には優しいけれど、けしてただの善良な大人ではなかったことを。
「俺のぷりちーどーたーが援助交際してるー!!」
「誰が娘だ。そんで援助交際って何。それ、僕にも四木さんにも失礼なんだけど」
ぐりぐりぐり
「痛い痛いボールペン痛いっす帝人さん!」
「芯出してないだけ有難く思え」
ふんと顔を逸らした帝人の首には銀のシンプルなチェーンネックレスが飾られており、若者らしくお洒落には敏感な正臣は元より疎いほうである杏里でさえもそれが露天で売られているようなものではないと分かる。
分かるのに当の本人は、「四木さんのお下がりだよ。何か自分には似合わないからってくれたんだ」と素直に騙されてた。
誰にだって?
そんなの悪い大人に決まっているだろ!
「断ろうにも、四木さん受け取ってくれないと捨てるって言うんだもん。しかもその場で本当に捨てようとするから」
お下がりでも、四木さんの思い出の品みたいなものでしょう?
だからつい手を伸ばしたら、「貰ってくれるんですね、ありがとうございます」ってすっごくいい笑顔で言われたらもう貰うしかなくて・・・・・。
自分でも浅はかだと感じているのだろう、ちょっと凹んでいる帝人に正臣と杏里は口をぱくぱくさせる。
((帝人さん気付いて!それ男のお下がりのはずなのに、女物でしかも新品だってことに!))
しかし、親友ズの心、帝人知らず。
でも良い人だよねーとほえほえ笑う可愛い少女に、今日も正臣と杏里はどっぷりとため息を吐いた。
今時の子にしては珍しく携帯にストラップ一つ付けていなかったのを知っていたから、ある日そこにまるで前から合ったように違和感無く収まる装飾品に少し驚いた。
「ああ、これのことですか?」
帝人は目前に携帯を上げ、ストラップを軽く揺らす。
派手さも野暮ったさも無いが少女の携帯に良く合うストラップ。
細い人差し指がちょこんと触れるたびに揺れるそれが、不思議と気になった。
「これ、四木さんに貰ったんです」
「へぇ、四木さんに・・・・・・・・・・・・・四木さんに?!」
「は、はい」
【四木ってあの四木か?!】
「多分その四木さんだと・・・」
四木、四木、飛び交う会話に帝人が思わず苦笑する。
しかし帝人以外の人間(ぷらす妖精)はそれどころじゃなかった。
「みみみみみかどちゃんそそそそそれって援助交際・・・!?」
「みとそが多いです。あと援助交際違います、それ僕と四木さんに失礼・・・何かこの会話前にもした気が」
「そんなことどうでもいいよ!」
「言ったのは臨也さんでしょ・・・」
「てか帝人ちゃんも何で抵抗なく受け取ってんのさ!これどう見たってそこらへんに売っている安物じゃないよ!むしろオーダーメイドっぽい匂いがするよ!世界で一つだけの物であからさまに君の為に造られたって感じなんだけど!!」
「説明臭い台詞ですね。でも四木さんは安物だって」
【あの男の安物基準は普通の奴と同じじゃない絶対!】
「・・・・・・言われてみれば、そうかも」
職業(?)は表だって言えないものだし、周りの人もちょっとというかかなり怖いし、スーツとかいつも違うの着ててしかも高そうというかあれは高い、帝人のアパートの家賃より高い、でも茜ちゃんは良い子だし、赤林さんも何かと声を掛けて気を使ってくれるし、何より四木さんは優しくて良い人でたまにドキッとするぐらいカッコ良くて・・・・、
「帝人ちゃん・・・?」
【帝人・・・・?】
「・・・・思考回路はショート寸前~」
ぷしゅー。
「帝人ちゃんん!?」
【みみみみかどー!!】
その日、女子高生を抱えて道路を疾走する都市伝説と情報屋の目撃例が多数ネットに寄せられたらしい。
「というわけで、やっぱりちょっとおかしいと思うんです」
「何がですか?」
「この状況がです」
帝人は四木ととあるレストランに居た。
それも全国にチェーン店がたくさんあるようなファミリーレストランではなく、都内唯一とか日本でここだけしかないとかそんな感じのレストランだ。
よくわからないが、会合がその近くで行われて、夕飯前に終わったからと帝人が電話で呼び出されたのがここで、うわあっとレストランの外観で尻ごみしている自分に、四木が「ドレスアップしましょうか」とその近くのこれまた高そうな服屋に連れ込んで、あれよこれよと頭から爪先まで飾られ、そして現在帝人は四木と向かい合ってナイフとフォークを持っていた。
うん、わからん。
「うう、また正臣達に怒られる・・・」
「おや、何故君が友人に叱られるんですか?」
「それは、」
傍から見たら援助交際に見えるからです、なんて本人を目の前にして言えるか。
(正臣のあほー臨也さんのばかー)
心の中で無駄に不安を煽った輩に(杏里とセルティは除外だ)罵声を浴びせながら、ぎこちない手つきで出される料理を口にする。
「・・・・・・おいしい」
「それは良かった」
ほにゃりと頬を緩めた帝人に四木は目元を和らげた。
(やっぱりかっこいいなぁ・・・)
元々奥手で引っ込み思案の帝人は、正臣を例外にして、男にあまり免疫が無かった。
特に大人の男など、父親ぐらいしか無く、あってもだいぶ年を取った人達ばかりだった。
しかし池袋に来てからはそれは一変して、何かと声を掛けてくる臨也や、仲良くなった静雄とトムとか、ワゴンのメンバーとかたくさんの人と出会い、帝人の内面は自分でも知らぬ内に変化していって、そこで出会ったのが四木だ。
茜を通して知り合ったのだけれど、彼は前から帝人のことを知っていたらしく初めから帝人に対して友好的で、以前ならまだしもすっかり大人の男に免疫が出来ていた帝人はそう時間も経たず四木とも打ち解けた。
そして今や、こうして食事に誘われても違和感の無い仲になっていた。
しかし第三者から見たらやはり奇妙な関係にしか思えないのだろう。
帝人は正臣と臨也に言われた『援助交際』にぶっちゃけ凹んでいた。
(そりゃあ、僕みたいな小娘が四木さんに釣り合うわけないけど)
「竜ヶ峰君、どうかしましたか?」
「へ、」
「先ほどから百面相してますよ」
「ええっ、・・・・・そ、そんなに顔に出てましたか・・・?」
「見てて飽きない程度には」
「うっ、・・・・・お見苦しいもの見せてすみません・・・」
子供は黙って大人に奢られなさいと言われ、子供扱いされたことへの複雑さと身内以外の大人の男の人に奢ってもらうシチュエーションに少しだけ気恥しさを感じたのを覚えている。
それからというもの、彼は帝人にいろんなものを与えてくれた。
まあ大半は苦学生の帝人にぴったりのご飯系だ。(それが一番帝人を喜ばせるのだ。色気が無いとその人には笑われたけども)
意外とこまめに、さり気なく、押し付けがましくないかと思えば少し強引だったり手段は様々。
もちろん帝人は今時の子にしては我儘の言わない子供で、毎回遠慮という名の抵抗をするのだが、そこは亀の甲より年の功。
大人は口八丁手八丁で経験値の無い少女を丸めこんだ。
それが何度も続き、暫くすれば少女の感覚もだんだん麻痺していく。
与えられるものがグレードアップしていっても気付けないほど。
そして帝人は忘れていた。
男は確かに帝人には優しいけれど、けしてただの善良な大人ではなかったことを。
「俺のぷりちーどーたーが援助交際してるー!!」
「誰が娘だ。そんで援助交際って何。それ、僕にも四木さんにも失礼なんだけど」
ぐりぐりぐり
「痛い痛いボールペン痛いっす帝人さん!」
「芯出してないだけ有難く思え」
ふんと顔を逸らした帝人の首には銀のシンプルなチェーンネックレスが飾られており、若者らしくお洒落には敏感な正臣は元より疎いほうである杏里でさえもそれが露天で売られているようなものではないと分かる。
分かるのに当の本人は、「四木さんのお下がりだよ。何か自分には似合わないからってくれたんだ」と素直に騙されてた。
誰にだって?
そんなの悪い大人に決まっているだろ!
「断ろうにも、四木さん受け取ってくれないと捨てるって言うんだもん。しかもその場で本当に捨てようとするから」
お下がりでも、四木さんの思い出の品みたいなものでしょう?
だからつい手を伸ばしたら、「貰ってくれるんですね、ありがとうございます」ってすっごくいい笑顔で言われたらもう貰うしかなくて・・・・・。
自分でも浅はかだと感じているのだろう、ちょっと凹んでいる帝人に正臣と杏里は口をぱくぱくさせる。
((帝人さん気付いて!それ男のお下がりのはずなのに、女物でしかも新品だってことに!))
しかし、親友ズの心、帝人知らず。
でも良い人だよねーとほえほえ笑う可愛い少女に、今日も正臣と杏里はどっぷりとため息を吐いた。
今時の子にしては珍しく携帯にストラップ一つ付けていなかったのを知っていたから、ある日そこにまるで前から合ったように違和感無く収まる装飾品に少し驚いた。
「ああ、これのことですか?」
帝人は目前に携帯を上げ、ストラップを軽く揺らす。
派手さも野暮ったさも無いが少女の携帯に良く合うストラップ。
細い人差し指がちょこんと触れるたびに揺れるそれが、不思議と気になった。
「これ、四木さんに貰ったんです」
「へぇ、四木さんに・・・・・・・・・・・・・四木さんに?!」
「は、はい」
【四木ってあの四木か?!】
「多分その四木さんだと・・・」
四木、四木、飛び交う会話に帝人が思わず苦笑する。
しかし帝人以外の人間(ぷらす妖精)はそれどころじゃなかった。
「みみみみみかどちゃんそそそそそれって援助交際・・・!?」
「みとそが多いです。あと援助交際違います、それ僕と四木さんに失礼・・・何かこの会話前にもした気が」
「そんなことどうでもいいよ!」
「言ったのは臨也さんでしょ・・・」
「てか帝人ちゃんも何で抵抗なく受け取ってんのさ!これどう見たってそこらへんに売っている安物じゃないよ!むしろオーダーメイドっぽい匂いがするよ!世界で一つだけの物であからさまに君の為に造られたって感じなんだけど!!」
「説明臭い台詞ですね。でも四木さんは安物だって」
【あの男の安物基準は普通の奴と同じじゃない絶対!】
「・・・・・・言われてみれば、そうかも」
職業(?)は表だって言えないものだし、周りの人もちょっとというかかなり怖いし、スーツとかいつも違うの着ててしかも高そうというかあれは高い、帝人のアパートの家賃より高い、でも茜ちゃんは良い子だし、赤林さんも何かと声を掛けて気を使ってくれるし、何より四木さんは優しくて良い人でたまにドキッとするぐらいカッコ良くて・・・・、
「帝人ちゃん・・・?」
【帝人・・・・?】
「・・・・思考回路はショート寸前~」
ぷしゅー。
「帝人ちゃんん!?」
【みみみみかどー!!】
その日、女子高生を抱えて道路を疾走する都市伝説と情報屋の目撃例が多数ネットに寄せられたらしい。
「というわけで、やっぱりちょっとおかしいと思うんです」
「何がですか?」
「この状況がです」
帝人は四木ととあるレストランに居た。
それも全国にチェーン店がたくさんあるようなファミリーレストランではなく、都内唯一とか日本でここだけしかないとかそんな感じのレストランだ。
よくわからないが、会合がその近くで行われて、夕飯前に終わったからと帝人が電話で呼び出されたのがここで、うわあっとレストランの外観で尻ごみしている自分に、四木が「ドレスアップしましょうか」とその近くのこれまた高そうな服屋に連れ込んで、あれよこれよと頭から爪先まで飾られ、そして現在帝人は四木と向かい合ってナイフとフォークを持っていた。
うん、わからん。
「うう、また正臣達に怒られる・・・」
「おや、何故君が友人に叱られるんですか?」
「それは、」
傍から見たら援助交際に見えるからです、なんて本人を目の前にして言えるか。
(正臣のあほー臨也さんのばかー)
心の中で無駄に不安を煽った輩に(杏里とセルティは除外だ)罵声を浴びせながら、ぎこちない手つきで出される料理を口にする。
「・・・・・・おいしい」
「それは良かった」
ほにゃりと頬を緩めた帝人に四木は目元を和らげた。
(やっぱりかっこいいなぁ・・・)
元々奥手で引っ込み思案の帝人は、正臣を例外にして、男にあまり免疫が無かった。
特に大人の男など、父親ぐらいしか無く、あってもだいぶ年を取った人達ばかりだった。
しかし池袋に来てからはそれは一変して、何かと声を掛けてくる臨也や、仲良くなった静雄とトムとか、ワゴンのメンバーとかたくさんの人と出会い、帝人の内面は自分でも知らぬ内に変化していって、そこで出会ったのが四木だ。
茜を通して知り合ったのだけれど、彼は前から帝人のことを知っていたらしく初めから帝人に対して友好的で、以前ならまだしもすっかり大人の男に免疫が出来ていた帝人はそう時間も経たず四木とも打ち解けた。
そして今や、こうして食事に誘われても違和感の無い仲になっていた。
しかし第三者から見たらやはり奇妙な関係にしか思えないのだろう。
帝人は正臣と臨也に言われた『援助交際』にぶっちゃけ凹んでいた。
(そりゃあ、僕みたいな小娘が四木さんに釣り合うわけないけど)
「竜ヶ峰君、どうかしましたか?」
「へ、」
「先ほどから百面相してますよ」
「ええっ、・・・・・そ、そんなに顔に出てましたか・・・?」
「見てて飽きない程度には」
「うっ、・・・・・お見苦しいもの見せてすみません・・・」
作品名:Marriage proposal 作家名:いの