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【酔っぱらいの結果論】

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 「うわっ」
 身体が宙に浮いたかと思えば、ぼすん、と背中が柔らかいスプリングにぶつかった。ベッドの上に倒れたのだろう。一応はいい部屋を取っておいた所為か、ホテルのベッドは一人で寝るには随分と広く、マットも上質のもののようだ。だからと言って、衝撃がない訳ではない。
 そもそも、何故こんな事になっているのか。イギリスは、無遠慮に己の上に跨ってきた図体ばかりが大きくなった子供を睨み上げた。彼はいつの間にスーツを脱いでしまったらしく、胸元を開いた薄いシャツ一枚に、首に申し訳程度にぶら下がったネクタイという随分とだらしのない格好でイギリスの上に乗っていた。いつもは好奇心やら自信で輝いている青い瞳が、今はうつろに濁っているのは酒の所為だろう。彼は酒をあまり好まず、普段から飲まない所為か、決して弱い訳ではないだろうが配分が分からなかったようで今日は深酒してしまったらしい。
 酔っ払ってしまった彼を何とかホテルにとっておいた部屋に運んでやったというのに、何故放り投げられてベッドの上に押し倒されているのか。いつもはイギリスの方が酔って前後不覚になる事が多かったので、これはこれで珍しいといえば珍しいのだが。
 「おい、アメリカ」
 重い、スーツが皺になる。退け。
 立て続けに言ってやったが、アメリカはぼんやりとイギリスを見下ろすばかりでまるで反応がなかった。テキサスが顔の上に落ちてこないか、妙な不安に駆られてしまう。
 「ねぇ、イギリス」
 「何だよ」
 「イギリス」
 かと思えば、どこか呆けたような表情のまま何度も、イギリス、と名を呼ぶ。
 まるで子供のような、甘えた声音に聞こえてしまうのは育ての親という立場の所為だろうか。図体の大きな男に甘えられても、普通なら楽しくも何ともないというのに。
 「ったく、何だよお前……」
 思わず吹き出してしまい、アルコールの所為で朱が差している頬をそっと撫でてやるとアメリカは擽ったそうに少し目を細めて、掌に頬を寄せてきた。酒の力というのは、絶大だ。普段なら絶対こんな姿は見せないだろうな、と思うと何だか妙に寛大な気持ちになってしまう。
 何時までも腕を突っ張って見下ろしてくるアメリカの頭に腕を回して、やんわりと抱き寄せてみる。彼は何の抵抗もなく肘を折って、まるでイギリスに覆いかぶさるようにして大人しく身体を寄せてきた。首筋に埋まる柔らかい金髪が、少しだけくすぐったい。
 イギリス。名を呼ぶ声が喉元を擽り、思わず身を竦めてしまった。
 「俺は、君の事が、好きだよ」
 本当に、酒の力は偉大だと、つくづく思う。
 彼はこんな事は言わない。これが本音なのか、それとも熱に浮かされた末のうわ言なのかはよく分からないが、ともかく、彼の口からは絶対に聞く事の出来ない言葉だと、イギリスはどこか他人事のように考えながらすり寄って来るアメリカの髪を梳いていた。こんな言葉を聞いたのは、もうずっと昔の、彼がうんと小さな頃の話だ。今ではすっかり、嫌われてしまったのだけれど。
 「好きだよ、すごく」
 「そりゃどーも」
 昔を思い出して、今と比較して、ただ悲しくなるだけだった。
 彼はイギリスの存在を煩わしいと、そう思って手を振り払って離れて行ったのだろう。思えば、愛情を一方的に押し付けすぎたのかもしれない。それでも、イギリスとしてみればやはり、かつての弟であるのだから嫌いになりきれるはずがなかった。自分で客観的に見ても、甘い、とは思うが今でもイギリスは何かとアメリカの面倒を見ている。それを彼がどう思っているのかは、考えない事にしていた。ただ、拒まれないのならばそれでいいと、それだけだ。
 嫌いだの鬱陶しいだの、言う割に拒まれないので安心していたりもする。
 我ながら女々しくなったものだ、そんな事を考えながら適当に相槌を打っていると不意にアメリカが、もぞり、と身じろいだ。再びベッドに腕をついて身体を持ち上げると、丁度お互いの顔がはっきりと見えるくらいに距離を保つ。その顔は何故だか不満そうで、まるで拗ねた子供そのものだった。
 「君、信じてないだろう」
 「はぁ?」
 「好きだって」
 まるで、ではない。まさに拗ねた子供そのものだ。
 唇を尖らしてぼやく姿は、大国とは思えないほど幼稚な仕草でその姿に幼い頃の姿が重なってしまい、どうにも込み上げてくる愛しさが隠せない。思わず零したのは微笑みだったのだが、どうやらアメリカはそれを「嘲笑った」と受け止めたようだ。
 「子供だと思って、馬鹿にして!」
 「別に馬鹿にはしてねぇよ」
 「でも、信じてないだろう。ねぇ、信じてよ、イギリス」
 俺は、君の事が好きだよ。そう囁く声は拗ねた子供の表情にはまるで似合わない、甘さを含んだ大の男のそれだ。そのアンバランスさにイギリスは流石にぎくり、と肩を揺らしたが、所詮相手は酔っ払いである。確かに子供だとばかり思っていたので、そんな声が出せるのか、と驚きはしたが。
 「あー、わかったわかった。信じてやるよ」
 「…本当かい?」
 「ああ」
 だから少し落ちついて、寝てしまえ。ホールドアップして見せると、アメリカは、そっか、と妙に素直に納得して見せると、ふにゃりと笑って見せた。ああ、本当に無邪気な彼の笑顔は胸に堪える。大きくなったとはいえ、未だ幼さが抜けきっていないのだから。
 どれだけ未練がましいのだろうか。まるで眩しいものを見たかのようにイギリスが顔を顰めると、アメリカは少し驚いたように瞬いたが、すぐに笑顔を取り戻すと再びイギリスの首筋に顔を埋めた。アルコールの所為か、それとも元々体温が高いのか、ぴたりと密着した身体は少し熱い。
 「ん」
 不意に、首筋を這う生暖かい感触にぞくりと肌が粟立った。
 「こら、何やってんだお前」
 それが何か、というのは確認するまでもないのだろう。慌ててアメリカの身体を押し返そうとしたが、手首を引っ手繰られベッドに縫い付けられる。そのままその感触はじわじわと上り、耳朶に触れた。濡れた音が鼓膜に直接響き、何とも言えないむず痒い感覚に襲われる。
 何が起こっているのか。考えが及ばなかったのか、考えたくなかったのか。
 気がつけば、いつの間にかスーツはおろかシャツやネクタイも解かれて、露わになった胸元を熱い掌が這っている。形をなぞっていた舌先が耳の中を擽り始め、漸く我に返ったイギリスは唯一自由な左腕で咄嗟にアメリカの後ろ髪をぐいぐいと、容赦なく引っ張ってやった。顔を上げて、痛いじゃないか、と言わんばかりに彼は顔を顰めている。
 「ばっ、お前、ほんと、何やってんだよ!」
 「何って」
 「ああもう、いいから手を退けろ!」
 イギリスの質問に、アメリカは心底心外だと言わんばかりに瞬いて見せた。
 ともかく、現状が理解の域を超えている。まさかアメリカに押し倒されて、身体を弄られるだなんて考えもしなかったイギリスだ。必死に身体を捩っていると、相変わらずイギリスの胸に直接手の平を重ねたまま、アメリカは事もなげに口を開く。
 「どうして、そんなに慌ててるんだい?」
 その表情は、常の彼のとぼけたそれに似ている。が、残念ながら酔いは醒めていない様だ。
 「どうしてって…、普通だろ!何で、こんな」