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【酔っぱらいの結果論】

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 「だって、信じてくれたんだろう?」
 「何が!」
 「俺が、君の事を好きだって」
 だから、触れてもいい筈だ。それが、彼の主張らしい。
 ちょっと待ってくれ、イギリスの悲鳴は残念ながら声には出なかった。
 確かに信じるとはいった気がする。そう言わないと、何時までも押し問答になりそうな気がしたのでとりあえず相槌のようなものだ。アメリカだって酔っているのだから、きっと酔いが醒めれば忘れているだろうし、ともかく酔っ払いには逆らわないのが一番だと知っている。だが、だからと言って何故現状に結びつくのか、まるで理解できなかった。
 百歩譲って、否、二百歩くらいは譲って、彼の言葉を、取り敢えずは信じたとしよう。
 「だからって、どうしてこうなるんだよ!?」
 酔っ払った君は厄介だ。アメリカのぼやきに、今更ながら謝罪したい。謝罪したいが、そのまま同じ言葉をそっくりそのまま付き返してやりたい、複雑な気分だった。
 「だって、信じてくれたんだろう。それでも、俺を付きとばさなかった」
 「そ、それは」
 「だったら、同じ気持ちなんだって、そう思うのはおかしいかい?」
 おかしくは無い、のだろうか。流されそうになるが、それは屁理屈だ。
 それでもそういえずに言葉を呑みこんだのは、何故だろう?
 言葉に窮して黙りこんでいると、アメリカはやはり、ふわり、と妙に綺麗に微笑んで顔を近づけてきた。唇が瞼に触れて、イギリスは漸く気付く。確かに自分の内に、彼から逃げようという気持ちが浅い事に。決してない訳ではなかったが、あの笑顔も、触れる温もりも、妙な懐かしさがあちこちをがんじがらめにしている。
 気持ち悪い、だなんて思う事もなく。
 「ねぇ、イギリス。好きだよ」
 そのまま唇が動いて、言葉が直接瞼に触れて思わずぶるりと身体が震える。
 「好きなんだ。お願いだから、俺の事を嫌いにならないで欲しい」
 囁かれる言葉は本当に切実さが籠っていて、何故だかイギリスの方が胸が苦しくなるような、切ない響きだった。きりきり、と胸が痛む。アメリカも同じなのだろうか、と宥める様に腕を伸ばし、背中を撫でてやると今度は彼の唇が、鼻先に触れる。青い瞳が嬉しそうに微笑んで、そのまま唇が重なった。とても、自然な仕草で。
 (どうしろって言うんだ、こんな)
 嫌いになれない事くらい知ってるだろう、そう毒づいてやりたくなった。
 そうはさせまいと思った訳ではないだろうが、唇を割って押し入ってきた舌先に言葉を奪われる。思ったよりもずっと巧みな仕草に、どこで覚えたのだろう、とぼんやりと考えた。かちり、とテキサスが当たって邪魔だったのでそっと口付けの合間で奪い取ると、唇を離したアメリカが少し驚いたようにイギリスを見る。彼にしては、無防備な表情だ。
 「何だか、そういうのって」
 誘われてるみたい、なんだけど。
 (はにかみながら、何を言うかと思えば!)
 「んな訳あるか!ほら、さっさと退け、この酔っ払い!」
 「俺は酔ってなんかないんだぞ!」
 どの口が言うんだ、とイギリスは溜息を吐きだした。不本意ながら先程交わした口付けでは、明らかに彼の口内には酒の匂いが残っていたのだ。思い出すのは、少し気恥ずかしいのだが。
 アメリカはむっと唇を尖らせると、すっかり忘れていたのだが、胸元をまさぐっていた手の動きを再開させた。気がつけば足の間に彼の膝が押し入っていて、う、と声が籠る。正直な所、先程から続く緩やかな愛撫に反応していない、といえば嘘になる状態だ。
 まさか、元・弟にこんな風に扱われるとは思ってなかった。
 かといって、突き飛ばす訳にもいかず肌を這う温もりに甘んじる訳にもいかない。
 「ま、待て、ホントお前、酔ってるんだって!醒めたら、後悔するって!」
 兎に角、彼に思いとどまってもらう他なかった。鎖骨にかじりついている頭を必死に引きはがそうとすれば、その手は鬱陶しいと言わんばかりに振り払われてしまった。それどころかお返しと言わんばかりに膝で足の間を押し上げられ、情けない声が上がってしまう始末だ。
 「イギリス、今の声可愛い」
 「はぁ!?お前、マジ、酔っ……ぁ、あっ」
 うっとりと蕩ける様な表情でそんな事を言われても、いたたまれなさが増すばかりだった。
 (マジでやばい、こいつ本気でヤるつもりなんじゃ…!)
 何が危険かと言えば、アメリカが酔った勢いだと言う事と、それと知りつつ振りほどけないイギリスがだ。きっとアメリカは酔いが醒めれば死ぬ程後悔するだろうし、イギリスはイギリスでやっぱりいろいろ後悔してしまうのだろう。そもそも、これってどうなんだ。倫理的に。
 「う…ぁ、アメリ、カ……っ、ほんと、は、…んっ」
 「どうしよう、君、すごく可愛いよ」
 「や……、っ」
 胸の尖りを甘く食まれて、ぞくり、と身体が疼く。
 本当に、このままでは拙い。どうにかしないと、拙いのだ。イギリスは必死に理性を総動員してアメリカを制止しようと彼の肩を押し返したが、震える手ではどうにもならない。妙に快楽に弱いらしい自分の身体を、今ほど疎ましく思った事はないだろう。
 もう、いっそこのまま――そんな考えすら浮かんだが。
 ふと。酔いの覚めたアメリカが、どうするだろうかと思った。案外、「やっちゃった」なんてあっけらかんとしている姿も想像できてしまうのが育ての親としては悲しい所だが、それよりも、真っ青になって「忘れてくれ」だなんて言われる方が、何となく、怖い。
 こんな事になって、折角少しは良好になった関係が、もし崩れてしまったら。
 また、独立直後のような、あんな距離感を味わうのだろうか。
 (嫌だ。そんなのは、嫌なんだ)
 ぞくり、与えられる愛撫に腰が重くなった。これ以上は、本当にどうしようもない。
 (ああもう、畜生!)
 「止めろ、っつってんだろ!このばか!!」
 結局、イギリスの理性を最後の一線で守ったのは、他ならぬ彼の拳であった。








 翌朝、アメリカにどう説明したものかと悩んだのはただの杞憂だったらしい。
 幸か不幸か、彼はぼんやりと記憶があったようだ。朝いちばん、イギリスの顔を見るなり赤くなったり青くなったり、随分と忙しなかったがすぐに「ごめん!」と頭を深く下げてきた。肌蹴たシャツの間から、彼の腹にはっきりと残る青痣が見えてしまい、イギリスも妙に申し訳ない気分になる。
 「もういいって。ったく、酒の飲み方くらい教えとくんだったな」
 「う…ご、ごめんよ、その」
 珍しく神妙な面持ちで、反省しているアメリカというのはなかなかに見る機会は無い。それに気が良くなって、恨み事を胸の奥に引っ込めてやる事にした。結局は未遂なので、まぁ、大目に見てやれるくらいイギリスはまだ、アメリカに甘いのだ。
 ふと、アメリカはおずおずと顔をあげると遠慮がちに腕を伸ばしてくる。
 指先が、そろりと鎖骨を撫でた。特に意図はなかったのだろうが、触れるか触れないかの曖昧な接触は、かえってくすぐったく感じてしまう。
 「ごめん、イギリス」
 「だ、だから、もういいって…」
 「そうじゃなくて」