【酔っぱらいの気付き論】
「いくら君がどうしようもない変態でも、酔った勢いで男を襲える訳がないよ。君は、俺が好きなんだ。こんな事、いちいち他人に言われなくても気付くべきなんだぞ」
一気にまくし立てて、わかったかい、と訪ねてやると返事はない。
少し身体を離して、俯きっぱなしの顔を覗きこんでやる。イギリスは呆けたまま何度かぱちぱちと瞬いて、その度に涙が零れたがどうやらもう泣いている訳ではなさそうだ。頬に触れて顔をあげさせれば、視線が交わった瞬間に、ぼん、とでも音をたてそうな勢いでイギリスの顔は真っ赤に染まった。
素肌でシーツに包まって、泣き顔のまま真っ赤になって、腕の中に収まっている23歳成人男性の図なんて世間一般では見れたものではない。見れたものではない、筈だ。
「お、お前、勝手に決めるなよ!別に俺は、お前の事なんか…っ」
それでも、可愛く見えてしまったのはもう誤魔化しようもない。
「ああ、それともう一つ」
必死に食い下がって来るイギリスをものともせずにっこりと笑顔を浮かべたアメリカは、すんなりとその言葉を口にした。驚くほど、素直に口をついて滑り落ちてきたのだ。
「俺も、君の事が好きだぞ。さっき気がついたんだけどね!」
だから拒まなかったんだぞ。そう言うと、イギリスの言葉は途中で途切れたままぱくぱくと、音もなく声もなくただ口だけが忙しなく動いている。もう顔どころじゃなく、耳や首筋まで真っ赤になっていた。その頬に口付けると、少しだけしょっぱい。
「良かったね。君みたいな変態でも、俺はヒーローだからちゃんと愛してあげるよ!」
「おまっ……、な、なん…っ」
どうやらすっかり言葉を忘れてしまったようだ。気の毒な人だな、なんて笑いながらシーツごと再び抱きしめてそのままベッドに倒れこむと、ぎゃあ、なんて昨夜と違ってなんとも色気のない声が聞こえてきた。けれどそれでいい、とアメリカは思う。昨夜のような、あんな彼はどうにも心臓に悪い。
せめてもう少し、気付けたこの感情に馴染んでからにして欲しい。
柔らかい金髪に顔を埋めると、まだアルコールの匂いが残っていた。
作品名:【酔っぱらいの気付き論】 作家名:みずたに