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【酔っぱらいの気付き論】

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 「死にたい死にたい死にたい死にたい死にたい……」
 「それはこっちのセリフだよ!」
 シーツに包まったイギリスに、一応は用意してきた眠気覚ましのコーヒーを差し出してやる。ちなみにシーツの下の彼は、素っ裸だ。別にアメリカが脱がした訳ではなく、寝ている間に無意識に彼が脱いでいたのだろう。本当に、どうしようもない。
 シーツからにょきりと伸びてきた腕が、半べそをかきながらマグカップを受け取る。
 それを確認してかてらどしん、とベッドの脇に腰を下ろす。シーツにくるまったままのイギリスは、器用にそのまま顔だけ出してカップに口をつけながら、恐る恐るアメリカを見上げてきた。
 「何だい」
 「い、いや」
 じろり、と睨み返せばバツが悪そうに視線を逸らす。
 そのまま沈黙とコーヒーの芳ばしい香りだけが部屋に満ちて、居心地が悪くなってきた。そもそも、こんな気持ちを味わうのは自分じゃない筈だ。そうは思ったが、一応自分にも非はあるのかと考え直す。不本意ながら、途中までは進んでしまったのだから。
 そしてさらに不本意ながら、トイレで思い浮かべたのは彼の顔だ。
 (だって、仕方がないだろう。あんな顔見せられたら)
 それで処理できてしまった、という後ろめたさがなくもない。
 「あ、あのさ、アメリカ…」
 「だから何だい。ああ、シーツを汚したのならクリーニング代くらいは出してくれよ」
 「汚してねぇよ、ばか!」
 イギリスが叫んだ途端、カップからコーヒーが零れてシーツに染みを作ってしまった。
 「……新しいシーツ、買ってくれてもいいんだぞ」
 「うぐ……」
 今にも泣き出しそうな、緑の瞳に涙を滲ませながらいい加減その体勢は飽きたのか、イギリスはシーツにくるまったままもそもそと起き上がるとアメリカの隣に腰を下ろした。シーツの合わせ目から覗く素肌は思ったよりも、ずっと白い。出来るだけ、視界に入れないように顔を逸らした。
 それで、さっきは何を言いかけたんだい。思ったよりも、無機質な声になる。
 「………悪かった。酔った勢いとはいえ、その」
 「そうだね。酔った勢いで襲われるとは思わなかったよ」
 対してイギリスは、珍しくしおらしい。あれだけの事をしたのだから、一応は紳士として気取っている彼にしてみれば一人前に罪悪感に苛まれているのだろう。
 本当だ、冗談じゃない。あれが別の人間だたらどうするつもりだ。相手によってはイギリスだってもっと酷い目に遭っていたかもしれないのに。これからは、くれぐれも自重してくれよ。
 「……本当に悪かった。出来れば、忘れてくれ」
 そう続けてやるつもりだったのだが、その言葉にざっくりと思考を切り取られてしまった。
 (忘れてくれって、何だいそれ)
 まるで、あれは本意ではなかったと言われているようだ。実際、酔った勢いではあるが。
 (忘れてくれって)
 イギリスの言った事は、ごくありきたりな台詞だ。こう言う状況になると、基本的にはこの台詞が飛び出してくるだろう。忘れたいのは事実ではある。
 けれどどうして、ずきり、と胸の奥が痛むのだろう。
 「はは、何だいそれ。何だかドラマのワンシーンだ」
 まさか、手切れ金でも持ち出すんじゃないだろうね。極力冗談めかしく笑ってやったつもりだが、それでも胸の痛みは誤魔化しきれない。ちらりと横目でイギリスの様子を窺ってみれば、彼は心底後悔しています、と言わんばかりの白い顔をして手にしたマグカップに視線を落としていた。
 ぼんやりと、頭の片隅で彼の指先が触れた温もりを思い出す。
 (忘れられる、わけが)
 唇を重ねた事を、あの時の酒臭さは最悪だった。口付けはもう少し、ロマンティックな方がいい。けれどどうしようもなく気持ちよかった。震えながら、先を促した表情を思い出す。年上の癖をして罪悪感を覚えるくらい幼い仕草で、そのくせとんでもない色気を含んでいて、まんまと乗せられてしまった。
 いつもネクタイを締めて、スーツを身に纏っているかっちりした彼とはまるで違う。忘れられるわけがなかった、だってそうだ。衝撃的ではあったけれど、あれは決して。
 (俺は、嬉しかったんだ。君に、あんな風に求められて)
 「忘れてあげてもいいけど」
 ひとつ、条件を出そう。イギリスが驚いたようにこちらを見たのが分かった。
 「何のつもりで、あんな事をしたんだい?」
 「そ、それは、だから……酔った勢いで」
 「へぇ。じゃあ君は、酔った勢いなら老若男女誰だって襲うのかい。変態だとは知っていたけど、そこまで節操なしだとは知らなかったよ!驚いたね」
 「ばっ、そんな訳ねーだろ!」
 「そうだよね、そんな訳がない。いくら君でも、そこまで馬鹿じゃない」
 たぶんね、と付け加えるとイギリスはますます泣き出しそうな顔になる。大の大人がなんて情けない顔をしてるんだい、と呆れたが困った事に、その顔は割と嫌いじゃない。
 そっと、彼の手の中からマグカップを奪い取った。二つのマグカップをサイドテーブルに置くと、今度こそ真っ直ぐにイギリスの瞳を覗きこむ。本当は死ぬほど後ろめたくて気恥ずかしかったのだが、そんな事を少しでも表に出したら彼は調子に乗るだろうから。
 「だから、聞きたいんだよ。どうして俺に、あんな事をしたんだい?」
 「だ、だから、酔った……」
 「ちゃんと答えないなら、皆に言いふらすぞ。イギリスに襲われた、って」
 今度こそ、イギリスは真っ赤になって泣き出してしまった。
 「悪かったって言ってるだろ!何だよ、襲った襲ったって……っ」
 ぼろぼろと大粒の涙を零しながら、しゃくりあげながら必死に大声を出している姿はどことなく痛々しい。すぐにその涙を拭ってやりたい衝動に駆られたが、伸ばした腕ばぱしりと叩き落とされる。
 「そんなに嫌だったら、さっさと振り落とせばよかっただろ!」
 「ああもう、朝から煩いよ。少しは落ち着いたらどうだい」
 「どうせ俺は煩いし、変態だって言われるし、飯は不味いよ!悪かったな!」
 「誰も食事の事は言ってないだろ…いいから、落ち着いて話を聞いてくれよ」
 頼むから、とすっかり興奮してしまっているイギリスの肩に腕を回すと少し強引に、ぐい、と引き寄せる。怒鳴り散らしていた割にすんなりと引き寄せられた身体はあっさりとアメリカの腕の中に収まり、すっかり硬直している隙にしっかりとシーツに包んで抱きすくめてしまう。
 じわり、とシャツに彼の涙が滲んだのを感じる。泣きだしそうな顔は何故だか嫌いではないが、彼の泣き顔は見たくなかった。わがままだと、自分でも思う。
 「いいかい?俺だって、そりゃあ嫌ならさっさと突き飛ばしてるよ。君なんかを抑えつけるのは簡単だしね。でも、そうしなかった。どうしてだか、分かるかい?」
 ふるり、とイギリスは腕の中で弱く頭を振る。
 「だろうね。自分の気持ちも分からないくらい、君は鈍感だから仕方がないよ」
 これは卑怯な言い回しかもしれない、とアメリカは思った。確かにイギリスは鈍いが、自分だって昨夜の出来事がなければはっきりと自覚はしていなかったのだから。
 「君は、俺の事が好きなんだよ」
 「…………………へ?」