【ぼくたちのてがみ】
「……分かってるよ。でも、それが一番難しいんだよ」
「そうですね」
その碧が伏せられるのを見て、日本は思わず微笑んだ。成る程、手紙を送ってきた友人がわざわざ己の身体を張ってまで背中を押してやった気持が、分かる気がする。
(流石に、私はアメリカさんに殴られるのは、ちょっと)
では、どうお膳立てしたものか。
「そうだ、口に出すのが難しいなら、まず紙に書いてみましょう」
そう言って紙とペンを持ち出すと、戸惑っているイギリスにペンを握らせて彼の国の言葉で、もっともポピュラーな愛の言葉を書いてもらった。相変わらず、流れる様に綴られるそれは角ばった日本語とはまた違った美しさを持っている。
「あ、そうだ。私、スコーンを作ってみたいんですけど、ご一緒にいかがですか?」
突拍子のない申し出だったが、恐らくイギリスは不審には思わないだろう。案の定、自分の得意料理を持ち出されてぱっと表情を明るくしたイギリスは、先程書いた言葉の行き先など気にもせずに意気揚々と台所に向った。
(私はやはり、こう言うのが得意なんですよね)
ふふ、と微笑んでその言葉をそっと懐に仕舞う。
あとは、彼のスコーンが失敗しないように適度に間の手を入れるだけだ。そのスコーンを、彼がアメリカに届けるよう言いくるめてしまおう。その籠には、たくさんのスコーンと、イギリスからのありったけの愛情を込めて。
アメリカに渡った友人から、電話を頂きました。どうやら作戦は成功だったようです。スコーンの入った籠の中に、彼の書いた愛の告白を忍ばせておく。完食すれば、見つけてもらえるように。勿論、友人には知らせていなかったので多少卑怯な気もしましたが…まぁ、結果良ければすべて良し、です。策士、だなんて言われてしまいました。参りましたねぇ。
その後彼らがどうなったのか、私の知るところではありません。貴方の知っての通り、相変わらず会えば罵り合うし、会議中は喧嘩はするし。それでもまぁ、2人きりになればそれなりの時間を過ごしてはいるようです。休憩中なんかは、うっかり逢瀬を目撃……なんて事は、まだないですけどね。
愛は素晴らしい、という話ですよ。
そういえば。愛を育むのは、私のようなおじいさんではなく、もっと若い方とどうぞ。
春寒の折から、くれぐれもご自愛くださいますよう、お祈り申し上げます。
敬具
作品名:【ぼくたちのてがみ】 作家名:みずたに