二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

群青

INDEX|1ページ/5ページ|

次のページ
 
「ファレナと国交を結ぶ? ……ずいぶん大がかりな事になりそうだな」
「そうね、結構距離があるし。でも交易相手としては申し分ないし、あちらとしてもガイエン方面や北方大陸へ向かう安定した流通経路としての群島諸国には期待をかけているらしいの」
最近は群島も安定してきた。初代代表であるリノが亡くなった前後には本当に大丈夫なのかと不安視する声も大きかったが、かつての戦を経験した人々が主な島々の代表として健在であった事が大きかった。無論影ながらレザーラが仲介役として立ち回ったという事も大きかった。
自分でも理解している。この身、この立場はある意味急場における群島の要として利用できる。だが別の面では危険をはらむ存在でもあった。
ファレナは情報収集力に優れているというし、あの国は恐らくは真と思われる紋章を国の象徴として祀る国だとも聞いている。かつての戦に置いて人智を越えた力が何度も使われた事は調べ上げているだろう。
黙り込んで考えに耽り始めたレザーラをちらりと見遣ると、父の跡を継ぎ今では女王と呼ばれているフレアは椅子に腰掛け思案しながら言葉を紡ぎ始めた。
「とりあえずあの国とは正式では無いにせよ交流は今までもあったのよ。ただ、事故も多かった。何しろ最寄りの有人島からあちらの港までが少し遠くてね、中継地点もなければ灯台もない」
「……それじゃ国交を結んでも同じじゃないのか?」
「あちらから提案があったのよ。中間地点に島とも呼べぬ岩礁がある。岩礁の割に比較的規模も大きいから、そこを基盤に人工島と灯台を設置できないかと」
「大がかりだね」
「でも実現すれば確かにお互い楽になるわ。あの辺は海難事故が多いから」
「確かに……」
そして意識は再び左手に飛ぶ。自分はその交渉問題に手を出すべきではないだろう。むしろ……
その左手にそっと手が添えられた。見上げるといつの間にか椅子から立ち上がった姉が腰をかがめて顔を覗き込んできている。もう若くは無いけれど、昔の面影を色濃く残した彼女は身内の贔屓目に見てもかなり美人だと今でも思っている。
「貴方にお願いがあるの」
「しばらく群島から離れて欲しい?」
「……勘が良いのは相変わらず、ねぇ」
フレアは苦笑し、そのままレザーラの首に腕を巻き付けてきた。淡い香りは袂に入れた香袋だろうか。フレアらしい上品な香りだな。と思った。
弟の方に顔を埋めて、表情を隠したまま彼女は小さく呟いた。
「本当は嫌なの」
「……うん」
「でも、あちらは歴史のある大国。こちらはファレナと比べればまだひな鳥のようなものよ。今の代表権はナ・ナルにあるけれど、……まだ私達は国力としては弱い集団なの」
「そうだね、どう足掻いてもそれは現実だ。どれほど島々の連携が強固になっても、国としてはまだ雛鳥だ。歴史も浅い」
ふ、とフレアは溜息をついたようだった。
「オベルは一番南に位置する国だから。交渉の前面に立つのは私達だと思う。無論他の島からも関係者は来てくれるでしょうけれど」
「この島で、ね」
そうなの、と小さく呟いて、フレアは黙った。気持ちは分かる。言いたくないのだろう。だから先回りして言うのだ。先刻もそうだったし今から語る事もそうだった。
「あちらは罰を把握している。……正体は知らずともなにがしかの真がかつてこの海にあった事を把握している。オベルにそれを置いておく訳にはいかない。むしろ群島の外に放り出した方が確実だ」
「……そうね」
「あちらがどれだけ諜報組織を駆使して調べ尽くしても、肝心の罰そのものがどこにもなければしらを切り通す事も出来る。相手も脅威はもう存在しないと判断して交渉に臨んでくるだろう」
自由に使える真の存在は、それだけで威圧となり脅しになる。そんな状態で正常な交渉などできるはずもない。
歴史ある大国に認められる事で、群島諸国連合は確固とした独立国として周囲にも周知されることになるだろう。それは重要な事だった。その交渉の際に威圧ともなる脅威が存在していてはいけないのだ。
未だ首に抱きついたまま離れない姉の背中をぽん、と叩いた。
「フレア」
「うん」
「時間のかかる長くて難しい仕事になりそうだね」
「……そうね」
「上手く行くように祈ってるよ。……どこか、別の場所で。時々手紙も書くから。でも返事はいらない、一カ所に長く留まることは無いだろうから」
「……そう、ね」
「でもずっと群島の事を考えているよ。……ありがとう、姉さん」

レザーラが群島を離れたのはそれから三日後、夜明け前の船便に一般客として乗り込んだのだ。平服でほぼお忍び状態で港までついてきたフレアがずっと手を振っているのを、その姿が夜明け前の藍色の波と群青の空に霞んで消えるまでずっと見ていた。
そして少しだけ、ラズリルの事も考えた。大切な友人達が多く住まうその土地の事を。
彼らにも後で手紙を書こう。返事は受け取るのが無理そうだとちゃんと理由も書き添えて。

そうやって彼は故郷の海を離れる事になった。

噂話で伝え聞く。そして近況と噂に関して抱いた感想を書き連ねて船便で送る。レザーラという名ではなく、生まれた時に両親からもらった名前で出した。ただし名前だけでフルネームではない。しかも愛称だ。周囲は首を傾げただろうが、フレアと昔を知る一部だけが理解しているに違いなかった。
噂話は刻々と変化していった。群島に近い港町界隈に時折立ち寄っては酒場で立ち飲みしつつさりげなく話を聞いて回る。一応順調に交渉は進んだようだが、件の人工島の建設が難航しているようだった。
そうだろう、そもそも群島側に埋め立て物資がない。その辺はファレナが全面提供するらしく、その代わり港湾施設の建設は共同、灯台は慣れている群島側が作る事になったとか。
たぶんオベルが全面的に協力する事になるのだろうな、と思った。位置的な理由だ。比較的資材をひねり出せるラズリルやミドルポート、現在代表権のあるナ・ナルは現地から遠すぎる。
きっと彼らは苦労している。でも頑張っているだろう。群島の人々はおしなべて明るく、勤勉で、逆境にも強いたくましさがある。オベルとて例外ではなく、むしろそういった群島らしさが凝縮したような国だった。
そうやってオベルとラズリルに手紙を送った。数ヶ月に一度、年に三〜四回程度。返事はもちろん受け取れない。万一身元がばれると何かと面倒だし、何より何だかんだで順調に進んでいる国交樹立交渉の邪魔をしたくなかった。

そうやって月日は過ぎていった。そして気付くとレザーラは外の世界の旅自体を楽しんでいた。知らない土地、群島以外の世界は目に新鮮で心浮き立つものがあった。群島は決して狭くはないが、世界は広い。概念だけで知っていた世界が目の前に広がっている。
ファレナとの交渉が終了し、新たな島にはニルバ島と名付けられたと聞いた。書き送った手紙にはお疲れ様、今まで頑張ったね、そのうち帰るよ、そういった事を書き記した。
気楽な旅に慣れてしまっていたこともある。
作品名:群青 作家名:滝井ルト