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裏密ロマンス

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ある日の午後。ここ新宿。真神学園は未だかつてないほどの驚愕の渦の真ん中にあった。
 京一なんかは顎が外れんばかりの驚きようだし、小蒔は一歩そこから後退し、美里でさえ目を剥いていた。醍醐に至っては既にここからいなくなっている。
 畜生、逃げやがったな、恨むぞ醍醐!

 事のはじまりはこの一言。それは一トンの爆弾にも匹敵した。
「あのね〜、ミサちゃん、好きな人ができたの〜」
 それは悪魔の声か、鬼の叫びか。
「それでね〜、ミサちゃんみんなに手伝ってほしいの〜」
 うっすらと頬染めて、言葉は明らかに嘆願なのだけれど…………その後ろに持っている呪符はなんだ!?
「緋勇くん!、京一くんが!」
 美里のかん高い声がオレの鼓膜をしたたかに打ち鳴らす。しまった、遅かったか!?
 見れば京一はうつろな目をしてぐーるぐーると首をまわしていた。
 やばい! トランス状態に入っている!!
「京一くんは〜手伝ってくれるよね〜」
 その目を覗き込んで裏密が刷り込みを始めていた。…………もはや手遅れである。
 美里もオレも小蒔も一様に目をそらした。
 ごめんよ、オレたちやっぱり自分の身が一番可愛いからさ…………もちろんおまえは大切な友だちだし仲間だって思ってるさ、だけど裏密が相手となると話は別だろ? おまえだってわかってくれるよな。
「ミサちゃんうれし〜」
 裏密はにっこり笑ってこちらを向いた。
 目を見てはいけない!
 裏密に宿る邪眼は人を石化したり、その力が強いときには人の体さえ意のままに操ることができるのだ。そしてその餌食になったのは哀れ小蒔だった。
 がくり、ひざをついて小蒔はその力に屈服した。
 御愁傷様。
 恐ろしさに震え上がるオレと美里に、裏密はその微笑みをなげかけるが、もちろん決して目を合わすような愚は犯すまい。小蒔が身を持って教えてくれたのだ。
「あれ〜ど〜して、ふたりとも顔を背けるの〜?」
 それはあなた様が恐ろしいからです。
 だが言葉にだしたら最後どうなるかわかったものではない。然してオレたちは押し黙る。
 その異様な、一種張り詰めた空気の中、京一はいまだ光のない目でぐーるぐーると頭をまわしていた。
 オレも美里も一瞬のすきも見せない。
 敵はその虚をついて攻撃を仕掛けるのだから。
作品名:裏密ロマンス 作家名:はましお