裏密ロマンス
「よう、如月、それに裏密、晴明、ッと、センセイまでいるじゃねえか」
出端をくじかれて裏密が攻撃を中止した。すかさずオレは村雨に一部始終をかいつまんで話して聞かせた。村雨もヘーとかホーとかあいずちを打ちながらどうにか事情をのみこむが、
「いいんじゃない?」
だってさ。そりゃお前は被害あうこたぁねーどろうけど!
ドン!
「ぎゃああ!」
その合間、ついにしびれをきらした裏密が店の一角を破壊しはじめた。
裏密の魔呪の釘が爆裂する!
応じて御門の早九字が飛ぶ!
「ど〜してミサちゃんの邪魔ばっかりするの〜!」
がしゃんどごがしゃん
台の上においてあったつぼや絵皿が砕け散る。
「ああ! 古伊万里が! 柿右衛門が! 景徳鎮が!」
如月が卒倒しかける。
「いいかげん目を醒ましなさい、貴方にはもっと相応しい人がいるでしょう!」
どがっしゃん
右隅においてあった古そうなたんすが木屑と化した。
「あー!! 李朝時代の箪笥が!」
二人が右へ移動するたび右においてあったものが。左に移動すれば左にあったものが、次々と破壊されてゆく。
「うぎゃああああ!!!」
如月の叫びが御近所界隈にこだまする。この店の客足が途絶えるのも時間の問題かな…………。涙で向こうが見えないオレは、放心して身動きひとつしなくなった如月を不憫に思った。
「ほう、そうか」
この滅茶苦茶な騒ぎの中、一人のんびりと酒を呑んでいた村雨が呟いた。
「そうかって、ナニ?」
「いやいや、なんであんなに晴明が裏密に突っかかっているかってこと」
「へェ!?」
どういうことだ、と聞いても村雨はにやにや笑うだけで答えてくれない。
そしておもむろにコップをおいたかと思うと御門に声をかけた。
「はるあきィ! そんな回りくどいことしても全然伝わんねーぞー!」
その言葉に動揺したのかわずかに御門の術の軌道が外れて西側の壁にぶちあたった。ミリミリと危険な音かする。
「う、うるさいですよ!」
御門の顔がわずかに赤い。
なんだか嫌な予感にオレは体を震わせた。
しかし村雨は全くの他人ごとにむしろ楽しんでいるようだ。
「素直に言っちまいな、その方が手っ取りばやいぜ」
「…………うう、わかってますよそんなこと!」
「ほら、言っちまいな」
「?? 何ガタガタ言ってるの〜」