裏密ロマンス
と吐き捨てて如月は自分の姿を見直す。制服は新調され、左腕は白い包帯を負かれ肩から釣り下げていた。
「まあ、そう冷たいこと言うな。今日はひとりだし」
「そういやそうだね、どうしたんだい、珍しいじゃないか」
「今日はみんな休みだったんだ。美里は過労、小蒔は高熱でぶっ倒れてるし、醍醐は人事不省。京一は登校拒否だ。しょうがないからオレ、今から見舞い行くんだ」
それで無傷のあんたは一体なんなんだ? という如月のもっともらしい疑問は、あえて心の中に留め置いた。誰だって命は惜しいし、今日は回復役の美里も高見沢のいないのだから。
「ふうん、それで裏密さんは?」
「ミサちゃんのこと〜呼んだ〜?」
「どぅわ!!」
突然上がった声に如月が三メートルほど飛び上がった。
噂をすればなんとやら、おそるべし裏密。勝手に召喚されやがったのか?
「失礼ね〜そんなに〜驚くことないでしょ〜」
「いや、き、今日はどした? こんなところで」
「うふふふふふ〜」
薄気味悪い笑い声を上げながら裏密は戸口の外を指し示した。
そこには青いブレザーの帰宅途中と見受けられる高校生の姿。
「あれは…………」
「…………王蘭高校2年1組滝川智宏。わたしの後輩です…………」
「うふふふふ〜、智宏くんっていうんだ〜」
頬染めて裏密が笑う。
嫌な予感がする。
「まさか!」
「かっこい〜よね〜」
その時、奥座敷の襖がスパーンを勢いよく開け放たれた。
「まだそんなことを言っているのですか!!!」
「御門!」
「貴方、一体どこから現れるのですか…………」
如月はもはや脱力しきっている。オレも、もうちょっと友達選んだ方がいいかな…………。
「笑止! いかなるものであってもわたしを阻むことなどできないのです!」
「それじゃ人間じゃねえよ」
「何か言いましたか、龍麻?」
涼やかな、しかし決して穏やかでない目を向けられてオレはブルッと震えた。
今の御門、ちょーこえェ!!
「何でもありません、ごめんなさい」
「よろしい」
ううう、うかつにしゃべれねえ。
「ま〜た〜し〜て〜も〜御〜門〜!!!!!」
身を低くして戦闘体勢にはいる裏密。
「頼むから店内で暴れないで下さい!」
如月の叫びも空しく、裏密は先制攻撃を仕掛けようとする。
その時、
幸か不幸か、ふらりと村雨がやってきた。