GUNSLINGER BOYⅦ
直接呼び出されるのはこれで何回目になるだろう。
静雄は案内の女性の後をついて階段を降りながらぼんやりと考えた。
この建物は一見普通のオフィスだが、地下は粟楠会の事務所の一つになっている。
静雄は普段は粟楠会の息のかかっている金融会社で借金の取り立ての仕事をしているのだが、たまにこうして呼び出されることがある。
大抵は幹部や粟楠会に関係する人物のボディーガードや周辺の警備の依頼だ。指示や命令ではない。あくまで依頼だ。静雄は別に粟楠の組員ではない。粟楠会所属ではなく、四木という幹部の男に個人的に雇われているという形になっているのだ。
働いているのはあくまでその関連会社であり、ボディーガードの仕事は別口ということになっている。
こうなった経緯には色々・・そう、思い出すだけで青筋が浮かぶ。
クソ蟲と呼ぶ天敵にハメられてありもしない嫌疑を被せられ、粟楠に命を狙われる身にされたのが始まりだった。
そのクソ蟲はその後すぐに飛び級で卒業し街を去っていった。何も解決しないまま残された静雄は一人で逃げ回るはめになり・・死ぬような思いを何度もし、その過程でその異常な力を四木に見込まれて嫌疑を抹消してやる代わりにうちで働かないかとスカウトされたのだ。
極道になるつもりはないとつっぱねると、他の就職先を用意され、必要な時にこちら(粟楠)に協力してくれればいいと言われた。
そして今に至る。
四木は何を考えているのか読めない上、裏で何をしているのか知れたものではない食えない人物であるので静雄自身あまり得意ではないが、流石に人の使い方というのを心得ているのだろう。静雄の沸点の低さも扱いにくさも理解した上で仕事を回してくるし、あえて暴力を奮ったり人を殺せというような静雄が嫌悪することも今のところ依頼してこない。給与にも待遇にも不満は無い。
性格とこの馬鹿力のせいでおそらく普通の就職がのぞめなかっただろう静雄にしてみればある意味理想の就職先だ。
ただ、きっかけがあのクソノミ蟲だということはどうしても気に入らないが。
そう思うだけで手すりを握りつぶしそうになる。
ああくそ、変なモノ思い出しちまった。
静雄は脳裏に浮かんだ悪魔の顔を振り払った。
今回の依頼内容はまだ聞いていないが、ここの事務所に呼び出されるのは初めてだ。
廊下を歩きながら、静雄は妙な臭いを感じとっていた。
・・・くせぇ。
しかもかつて嗅いだことのある、それ。
実際は〈臭い〉ではなく〈気配〉なのだが、静雄の人並み外れた五感はその気配を悪臭として感じとっていた。
しかも先へ進むほどにその気配は強まっていく。
苛立ち、殺意、そういったものを呼び起こす気配。
ドアが開かれた。
応接室のような部屋に、ソファが向かい合わせに置かれている。
そこに黒髪黒コートの男が足を組んで座っていた。傍らには黒い帽子を深く被った子供。子供も黒い服を着ている。
男はこちらに気づくと紅い目を細めて心底不快そうに言った。
「・・・・なんでここにいんの?」
作品名:GUNSLINGER BOYⅦ 作家名:net