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【ヘタリア】 王様と俺様 1 Preußen Blau

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「王様と俺様」1 Preußen Blau


 「フリッツ!!どういう事だ?!」

フリードリヒ2世の執務室に、ギルベルトが怒鳴りこんできた。

「なんだね? 騒々しい・・・。今朝から、私は頭痛がするのだ。少しは静かに・・。」
「これが静かにしてられっか! お前・・・あの長身兵どもを、全員解雇したって本当か?!」

国王は、頭と片耳を押さえながら答える。

「ああ。確かに解雇したが。それがどうかしたかね?」

「どうかしたかって・・・! あいつらは・・・あいつらは、無理やりお前の親父に連れてこられたんだ!!今さら、故郷の村に返されても、食っていけねえ奴もいるんだ!!それを解雇って・・!!」

「あやつらは、経費がかかりすぎる。その割には働きは通常の兵とかわらない。削減すべき対象となっていたからそうしたのだがね?プロイセン。」

長身兵とはフリードリヒの父、フリードリヒ・ヴィルヘルム1世が、身長の高いものを重用して作った巨人連隊の兵士の事だ。2メートルを超すような巨体の兵士がうようよとしているが、実際には戦ったことがなく、各国の嘲笑の的となっていた。

若い国王は、キンキンと響くギルベルトの声に、頭痛が悪化したようだった。
朝からずっと我慢していたが、耐えがたくなってきた。

「あいつらの身にもなってみろってんだ!!無理やり兵士にさせられた上、今度は田舎に帰れってのか?!せめて、食えるような仕事を見つけてやってからでも解雇は遅くねえだろ?!」

国王は、さらに痛みが増した頭を抱える。

「・・・・・・・・頭・・・・が痛い・・・・。」

「そりゃ、中には木偶の坊もいるから、頭の痛い連中かもしれねえさ!でもよ!
あいつら、いい奴なんだ!素朴で、純粋で・・!」

「・・・プロイセン・・・・頭が痛いのは私だ・・・・。」

机に突っ伏して両手で頭を抑え始めた国王をみて、やっとギルベルトはわめくのをやめた。

「・・・・大丈夫か・・?フリッツ・・・。悪かったよお・・・大声だして・・。」

「・・・プロイセン・・・・ギ・・ル・・ベルト・・・・。」

頭痛は増して、フリードリヒの額からは冷や汗が流れてきた。

「ご、ごめん!!フリッツ!!大丈夫か?!真っ青だぞ!」

フリードリヒが、ギルベルトを個人名で呼ぶ時、それは「助けてほしい」のサインなのだ。
それは、彼がまだ幼い王子だった頃からの、二人の間での暗黙の了解だった。

「医者ぁ、医者を呼べ!おい、フリッツ、すまなかった。すぐに横になれよ。どうせ、昨日もまたろくに寝てねえんだろ?」

それでもまだ机にしがみつくフリードリヒを無理やり引きはがして、長椅子に横たわらせる。
目を閉じた国王は、ぐったりと倒れこむ。

「・・・・・仕方ないだろう?眠れないのだから・・・。」

「眠れねえなら、仕事してねえで、横になってろよ!頭いてえのに、無理やり起きてるとどんどんひどくなるぞ!」

「・・・お前が怒鳴りこむまでは・・・・・・なんともなかったのだ・・・・。」

消え入りそうな声で、フリードリヒがうめく。

「・・・・俺のせいかよっ!って、ごめん!大きな声で!」

呼ばれた侍医が国王を診察する。

「ふむ・・・。軽いお風邪を召してらっしゃるようですな。あと、やはり、いつもの睡眠不足と過労が原因と思われます。しばらくは安静になさってくださいませ。」

医者の置いて行った苦い薬には見向きもせずに、フリードリヒが言う。

「プロイセン。そこの書類をとってくれ。今日中にしあげてしまわないと・・・。」
「寝ろって!とにかく休め!んなもん、後でだっていいだろ!」

「・・・・・・だから・・・・・・お前の声は・・・・響くんだ・・。」

黙れ、というように、フリードリヒはその青い瞳でギルベルトを睨みつける。

はあ、っとギルベルトはため息をついた。

(こいつの頑固さときたら、もう・・・・。こりゃあ、今日の分の仕事が終わるまでは、ぜってーに寝ないだろうな・・・。ったくよお・・・・子供の時から変わってねえなあ。)

フリードリヒは国王になってからまだ日が浅い。
父王が亡くなったとたんに、勢力的にすべての事案を解決しようという意気込みはいいのだが、一人の国王に出来ることなど、おのずと限界がある。

しかし、フリードリヒは、その限界を自らの睡眠時間と、趣味に費やす時間を削って、補おうとしているのだ。

そして、当然、体の弱いフリードリヒは、こういう「頭痛」や、「風邪」に悩まされることとなる。

「おいよお・・・フリッツ・・。無理するのもいいかげんにしろよ・・・!
お前が頑張ってるのはわかるけどよお、国王が倒れちまったら、かえって何も進まなくなるんだぜ・・・・。」

「わかっているよ・・・・・それでも・・・・」
「それでもやらなくては、ならない、か?もういい加減にしとけよな。」

ギルベルトはなんとか起きあがろうとするフリードリヒに、毛布をかけておさえつける

「もういいから、今日は休んどけよ。また熱がでたら、困るだろ?ほら、俺に書類かせよ。やれるとこくらいやっとくぜ。」

フリードリヒはそれでもまだ抵抗していたが、全ての書類をギルベルトが抱え込んだのを見て、やっとあきらめた。

「・・・・・迷惑をかけるな・・・。」
「なあに、気にすんなよ。こういう書類仕事って嫌いじゃねえぜ。さっさと手を動かせばいずれ終わるだろ。」

ギルベルトは鼻歌を歌いながら、書類を片付けていく。

(まあ、国政に何年も携わっておきながら、ずっと終わらないやつもいるのだがな。)

と思いながら、国王は「国家殿」を見つめる。


優秀・・・・だが、一言多い。
美麗・・・・だが、教養がない。
最強・・・・だが、狂犬にちかい。

さて・・・・こやつをどう教育してやろうかな・・・・。

子供の頃は、まるで狂戦士のようなギルベルトを畏怖したものだったが、今では彼が、人懐こく、寂しがり屋の青年だと知っている。

「おい・・・フリッツ・・。眠れそうなら眠れよ・・・。無理やり起きてるとまた熱があがんぞ。」
「いや・・・さっきよりもだいぶ楽になった。このまま横になって休んでいれば大丈夫だろう。」
「そうか?んならいいけどよ・・・・。」

国王は眠らないが、目を閉じてしばらく休んでいた。
子供の時から、ギルベルトがそばにいると、心がなぜか休まったものだった。
それは彼・ギルベルトが「プロイセン」=我が国だからなのか。
それともフリードリヒを、あの父の虐待からいつも守ってくれた記憶からくる安心感なのか。
国王になった今、多くの場合彼自身が頭痛の種でもあるが、ギルベルトはフリードリヒにとって、ある種の「特効薬」のようなものだった。

そばではギルベルトが書類をめくる音が静かにしている。

(いいものだな・・・・・・。こやつが大声で騒がずに、静かにそばにいてくれるというのは・・・・・。)

目を閉じていると、頭痛も収まり、気分も数段良くなってきた。
そろそろ起きようかと、体から毛布を外すと、ギルベルトがうめいていた。