【ヘタリア】 王様と俺様 1 Preußen Blau
「・・・ありゃ?これはなんだ?ラテン語・・イタリア語・・・じゃねえな。おい、フリッツ。これは俺様にはわかんねえ。何語で書いてあんだ?」
ギルベルトが書類をよこす。
国王は、長椅子に横たわりながら、それを見る。
「ああ、これはフランス語だよ。なんだね。まだフランス語は習っていなかったかね?」
「・・・俺は・・・・フランスは嫌いだ・・・・。」
すねたように言うギルベルトを見て、国王はぷっと吹き出した。
「な、なんだよ!!なんで笑うんだよ!!」
「お前は・・・まだ怒っているのか?私が怒っていないのだから、お前が気にすることはないんだぞ?」
「俺は・・・あいつ・・気に入らねえんだよ!」
ぷいっと横を向くギルベルトは、見かけよりもずっと幼い少年のようだ。
以前、フリードリヒが国王として即位した際、それを祝いに来たフランスの使者の中に、フランシス・ボヌフォア=フランスがいたのだった。
そしてご丁寧にも、挨拶・・・・と称して国王とギルベルトに抱きついて、その際、おしりを触っていった・・・・。
本来なら、激怒すべき失礼な行為なのだが、フランシスのあの性格と話術にはぐらかされて、単なる楽しいおふざけ・・・・として終わった。
フリードリヒ自身は、まあ、そういう奴なのだろうとしか思わなかったのだが、ギルベルトは違った。
剣を引き抜き、フランシスにとびかかった時、フリードリヒは侍従と供に、必死でギルベルトを止めなければならなかった。
なんという潔癖な子だろうか・・・・。
まだ心は「騎士団の戒律」を守っているのか・・・。
赤くなって
「この変態野郎!」
と叫ぶギルベルトは可愛かった・・・・。
私のために怒っているのだと思うと、さらに愛おしさが増してくる。
フリードリヒの何十倍もの年を重ねていながらも、「国」の精神年齢というものは、どうやらその見かけと比例するものらしい。
戦闘では老練な戦略と非凡な才を見せながら、普段の生活の中ではまるで子供の様だ。
まだギルベルトの心は少年のままなのだろう。
そんなところが、可愛くてならない。
「お前も・・・そろそろフランス語を勉強してもいい頃だろう?フランシスと話すためじゃなくていい。フランスの文化と伝統は、この欧州では圧倒的なんだ。フランスの国力が今、どこよりも強いのはいなめない。諸国から馬鹿にされないためもフランス語は必要だよ。あと、フランス人達・・・・どうせ私達がフランス語すらわからないと馬鹿にしているだろうが・・・・彼らがあからさまに話している内緒話もわかっていたほうがいいからな。」
「・・・わかってるよ・・・・。どうせフリッツも、俺に教養がねえって言いたいんだろ!」
「うん?まあ、教養がないというより・・・・覚えようという気がないだろ?お前は。」
うっと、ギルベルトがつまる。
「その気になれば、誰よりも早く覚えるくせに、嫌いな事はまったくやろうとしない。困ったものだよ。お前のその悪いくせは。」
「だってよお・・・・。俺はフリッツみてえに、啓蒙とか哲学とか興味ねえし・・・。あのフランス人のヴォルテールとかいうおっさんは、俺を馬鹿だと思って、いっつもしかりやがるし・・・。
なんでフリッツはああいう連中ばっかりかまうんだよ!」
「かまうというか・・・・私は彼らに教わっているのだよ。君主としてどうあるべきかを。」
「お前はお前のまんまでいいじゃんか!なんでわざわざ教わんなきゃならねえんだよ!」
「私はまだ未熟だからな。どうやって国民に尽くすべきか、何をしたら国のために良いのかわかっていない。だから教えを請うのだよ。」
「・・・俺は、フリッツの思うまんまでいいと思うけどな・・・・。」
「ふふ・・・・。お前はそう思ってくれるかもしれないが・・・国民にはいろいろと不満や望みがあるだろう?そういうものをきちんと聞いて、彼らの要望を国政にいかせなければ、私が国王になった意味がないだろう?」
「フリッツは真面目すぎるんだ・・・・・・。」
ギルベルトは口をとがらして、不満顔だ。
「お前だって真面目だよ。そう見えないように、ふるまっているがな。お前の真の姿は、厳格で真摯で、誠実な、騎士そのものだよ。」
「・・・・・・フリッツ・・・・・恥ずかしいこと言うよな・・・。」
「何、私はいつもそう思っているよ。お前は「素晴らしい」才能があるのに、ろくな教育を受けてこなかっただけだ。ラテン語やポーランド語や英語なんかはすらすら読み書きも出来るのに、フランスが嫌いだ、というだけでフランス語だけは覚えないだろ?それは単に子供の好き嫌いと同じだよ。
お前には、「すごい」才能があるんだ。ちゃんとそれを生かさないとな。」
「・・・・・・・・俺に才能なんかあるのかな・・・。」
言われたギルベルトはまんざらでもなさそうだ。
「あるさ。それもあらゆる分野にわたってね。お前は一度覚えたことは忘れないし、剣も誰よりも強いし、何よりも、その強い、何事にも負けない心があるだろう?
それはこれからのプロイセン王国と、私にとって、とても必要なことだよ。」
「・・・そう・・・なのかな・・・・。」
「そうとも。お前は自分を過小評価しすぎなのだよ。お前は賢くて、強くて、素晴らしいのだよ!自信を持ちなさい!私が保証するよ。」
「そうかなあ・・・・・。」
「そうだとも!さあ、プロイセン。頭痛もおさまったから、これから私は宰相に会いに行く。お前も一緒に来なさい。」
「げっ!あのおっさんかよ!俺、苦手なんだよ・・・・。」
「苦手なものを克服するのも、勇気を持った者の使命の一つだよ。
お前は賢い。あんな、たぬき親父の理屈など、すぐにひねれるはずだろう。」
「あ、ちょっと待てよ!フリッツ!お前、医者がくれた薬まだ飲んでないだろうが。」
「あんなものは気休めだよ。お前が一緒に来てくれた方が、ずっと気分がいい。」
「俺はお前の薬かよ!」
「その通り。では行こうか?プロイセン。」
なんだか言いくるめられた気がするが、とにかくギルベルトは国王についていった。
宰相の伯爵は、一筋縄ではいかない相手だ。
新しい国王であるフリードリヒが国庫から予算を引き出すのも、一苦労なのだ。
しかし、どうしてフリードリヒは全てを自分の目を通さないと気が済まないのだろう?
今までの国王は、大臣や行政官たちにまかせっぱなしが当たりまえで、自分で国政のすべてを行う国王など皆無といっていい。芸術なり、軍事なり、好きな事のみ、夢中でやっていた。
これは、フリードリヒの完璧主義からくるものか、それとも若い国王の自負からくるものなのか・・・・・。
ギルベルトには、この国王が身を削って「国」のために働く姿が、嬉しい半面、心配でならない。
生まれた時から知っているが、フリードリヒは丈夫なたちではない。
小さい時からひ弱で、すぐに熱を出す、神経の細かい子供だった。
14人生まれた兄弟姉妹は、10人が生き残り、フリードリヒは、残った中の上から2番目の子供だった。二人兄がいたが、一歳足らずで死亡したため、後継者となったのは3男の彼だった。
作品名:【ヘタリア】 王様と俺様 1 Preußen Blau 作家名:まこ