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初逢

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「っ!?」

布団を掴んだままふわりと横抱きにされた俺はおずおずと顔を上げると、そこには何度も名前を呼んだ臨也が居た。渇望し過ぎての幻覚かとも思ったがこの浮遊感は本物だろう。それに二人もまだ俺の下に居る。

「臨也……?」
「大丈夫?」

力の抜けた俺の手から布団が重力に従ってあるべきベッドの上に戻った。眼に涙を浮かべている俺を見て顔を覗き込み、目尻に口付けを落としつつ抱き締めてくれた。本人だとようやく実感が沸いてきた俺は二人からより離れる為にも臨也の首に腕を回して抱きつく。

「ごめんね、こいつらが勝手に入ってきて対応に困ったでしょ。お前らシズちゃんに変な事してないだろうな?」

前半は俺に対して、後半は顔を見合わせている姉妹に投げかけた。若干苛ついているような声に俺は顔を上げる。

「臨也……知り合い、か?」
「うーん……まあね」

人類すべてへの愛を歌う臨也が珍しく言葉を濁した。盛大に溜め息を吐いた後にはっきりと、

「俺の妹だよ」

と言ったのに眼を見開いた。驚いて二人に視線を落とすと、ばっちりと目線が合い、片方が手を挙げた。

「折原舞流でーす!」

すぐ逆の方が手を挙げ、

「折原九瑠璃」

と自分の名前をぼそぼそ囁いた。そのまませーのと掛け声を合わせ、一斉に臨也に抱きついた、と思ったが、腕というより足を伸ばしている辺り蹴ろうとしたのか。慣れているらしく臨也は幼い身体をひょいと払うだけで済ませた。

「臨也の……妹?」
「そ。不名誉だけどね」
「えー。イザ兄、お兄ちゃんっぽいことなんか何にもしてないじゃーん!」

何度か感じた既視感の理由が判明した。言われてから改めて二人を見直すと、紅色の瞳は真っ黒の髪は勿論、顔形が臨也によく似ていて段々口がぽかんと開いてきた。今の今まで臨也に兄弟が居るなんて知らなかった。聞かなかったし、言わなかった。
ベッドの上に膝をつけた俺は興味津々に己を見つめてくる二人に歯切れ悪く言葉を繋いだ。

「平和島、静雄……です」
「知ってるー! イザ兄から聞いてたよ!」

きゃっきゃと賑わいでいる二人に臨也が判り易く溜め息を吐いて首根っこを引っ掴んだ。

「タクシー呼んでやるからとっとと帰りなさい」
「やだ! 静雄さんでもっと遊びたい!」
「叱(こら)……違(でじゃなくてと)……」
「シズちゃん、すぐ戻るから」

苦笑しながら振り向いた臨也は未だぎゃあぎゃあ騒ぐ二人を強制的に連行して行った。布団に包まったままぽつんと残された俺はベッドにうつ伏せになってごろごろしてみる。いざやの、いもうと。やや人の話を聞いていないような節があったが、外見は可愛かった。流石臨也の血縁者だけのことはある。俺に兄弟が居ないから羨ましい。
暫くすると臨也が戻ってきた。物凄く疲れたような顔をしていたが、気遣う事無く頬を膨らませた。

「なに拗ねてんのさ」
「だって……なんか臨也、取られた気分……」

俺は臨也の事は死ぬほど好きだけど、あの二人はもっと根底的な部分で繋がっているような感じで羨ましかった。切なげにぽそぽそ呟く俺に臨也は何故か嬉しそうに笑い布団ごと俺を抱き上げた。

「ん……?」
「クルリとマイルに焼餅?」
「悪ィかよ」

べー、と舌を出して威嚇したら臨也の指先が俺の目元を撫でる。ほんの僅かに赤くなっているそこ。臨也も疲れているだろうに、細かな気配りをくれてまた泣きそうになる。俯きかけた俺の顎を支えてゆっくり視線を絡ませた。

「ね、シズちゃん。キスしよっか?」
「……勝手にすれば」

朝だって此処でした癖に。臨也とするキスは身体が熱くなって、心は安らぐ。つい臨也の服を少し掴んで皺を作るのも、何時もの事。
おやすみのキスには些か早いけど、ベッドの上でするには優しく柔らかな口付けだった。





02その場所は僕のもの
  (触れようものなら容赦しない)

作品名:初逢 作家名:青永秋