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初逢

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見ず知らずの他人の侵入を赦した事に臨也から怒られるのを覚悟しながら事務所の大きなソファの影に隠れた。二人はこの家の構造を知らないらしく、やや遅れて入ってきたが、どうやら二手に別れて俺を探すらしい。髪の短い方が俺の方に近付いてきて頑張って縮こまる。逆の騒がしい方は給湯室の方で食器をがちゃがちゃさせながら「静雄さん何処ー?」と笑っている。
どうにかして臨也に連絡したいが、連絡手段は臨也の方からかかってくる電話を取るしか方法を知らない。都合よく今電話のベルが鳴るとは流石の俺も思っていなかった。しかも仮に鳴ったとしても、俺の近くにいる女が傍を通っているから無理だ。

「静雄さんー? かくれんぼじゃないよ、鬼ごっこだよー? んもう、イザ兄の家、広すぎるよぉー!」

なんとか距離を置こうとソファを軸にしてじりじりと移動するが、眼鏡の方の女に意識を向かせた瞬間、俺の目の前が翳った。

「捕(みーつけた)……」

ヤバイ、と思った俺はすぐに立ち上がり、“くるねえ”と呼ばれていた女にクッションを投げる事でなんとかやり過ごす。だがその所為で給湯室を漁っていた女もこちらに気付いたらしく、二人にはっきりと視認された。

「居たぁー!」

輝いた眼で見られても何も嬉しくない。二人ともかなり足が速いらしく、あっという間に俺ににじり寄って来た。俺は事務所から玄関の方へ逃げ出し、途中の寝室に入り込んだ。こんな狭い部屋に逃げた事をかなり悔やみながらなんとか扉を閉めようとするが、流石に男といってもこの歳じゃ男女差は余り無い。しかも向こうは二人で、せーのっという可愛らしい掛け声と共にドアは開けられてしまった。

「う、わ」
「静雄さんつーかまーえた!」

容赦無く手で触れようとしてくる手から逃げる為に部屋の奥まで走り、ベッドの上に這い上がった。当然二人も我が物顔でよじ登ってきて軽く涙目になった俺は布団を抱いて壁に背を預ける。これ以上逃げられない。

「ターッチ!」

二人が手を伸ばし、ぎゅっと眼を瞑った俺の肩に同時に軽く触れてきた。臨也以外の他人に触られたのなんて何年振りだ、とぶるっと震えた俺に対し、二人は暢気にハイタッチを交わしていた。

「あはははは、面白かったねクル姉! こういう子供染みた遊びって本気でやるから面白いんだよね!」
「自(わたしたち)……本(こどもだから)……」
「あ、静雄さん驚かせちゃった? 大丈夫大丈夫、怪しくないよ、私たち!」

他人の家に土足で上がってきて突然鬼ごっこという脅迫をしてきた子供とはいえそんな奴を怪しいと言わないなら何から怪しいと言うのか納得が行くように説明して欲しい。

「……おっ……」
「お?」
「お、おま、えら、誰だ」

やっと二人に繋げる事が出来た言葉は素性を聞くものであった。二人は顔を見合わせる。横顔が吃驚するほどそっくりである事に今更気付き、この二人は姉妹なのだとようやく理解した。そういえば服も色違いなだけで揃いのものを着ている。何より印象的な濁った赤い眼は何処かで見た気がする。

「静雄さん、私たちが誰か聞いてないの?」
「し、知るか。誰だよ! 勝手に変なこと、しやがって!」
「あちゃー、クル姉、ちょっと不味いことしちゃったね?」
「人(いざやにいさん)……疑(おこるかな)……?」

何やら小声で身内の相談をし始めた二人に、俺は身を守る為に布団を一層強く抱きかかえた。臨也の匂いがして少しだけ安心出来るからだ。だが不安は払拭出来ず、二人に対する恐怖心が抑えきれなくなった俺は涙声になりながら叫ぶ。

「臨也ぁ……!」
「うわっ」

いきなり他人の名前を呼び出した俺に二人が驚き少し距離を開ける。離れた温もりに俺は布団に顔を押し付けて臨也の気配で気を紛らわせようとする。布団に押さえつけられてくぐもった音しか出ないが、なおも呼ばないと気が済まない。

「臨也、臨也、臨也っ……う、いざ」
「ん」

突如、ベッドが軋んだかと思ったら俺の身体が宙に浮いた。

作品名:初逢 作家名:青永秋