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ならば、仕方ない【太妹】

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「はい、28パーセント。もっと真面目に歯磨きしようね」

「…磨いてます」

「はいはい。一桁に出来る様に頑張ろうな」

「馬鹿にするなっ!!」

「キシリトールッ!!」






「お前、そりゃあ普通、怒るだろ…」

近付けたうどんを口に含む事も出来ずにツルリと器の中に戻しながら、平田は呆れた様に首を振った。

わいわいと診療を終え、ぞろぞろと薬品の匂いを沁みつかせた者共が学生に混じって食堂に集まり始めた。

本来は白衣の衛生上、脱いで此処に来るのが正しいのだろうが其れを守るのもせいぜい勤務一年目くらい。そもそも、歯科医の白衣は上下ともに分かれた物で、脱ぎ着がしにくいのも理由だ。実験などで使う、直ぐにボタンの外せる白衣を着るのは、せいぜい学生ぐらいだろう。

「なあ、聞いてるのか平田?」

「ああ、馬の様に聞いてるさ」

「聞き流してるののかよ!!」

今月に入ってもう四度目。

繰り返される痴話喧嘩の緩衝材に自分を頼るのはいい加減に止めて欲しい。

今日の内容は比較的分かりやすかった。どうやら恋人の歯垢率を自宅で測ってやったらしい。歯垢率とは一本の歯を側面四ヶ所に分けて28本の歯の汚れの具合を割合にするものだ。30パーセント以下なら、綺麗に磨けている方ではあるが、自分達が15パーセントを当たり前に切るのを考えれば、まあ磨き足りないと感じるのも致し方ない。

しかし、磨けてないと云う事実自体が問題な訳は無い。およそデレデレとし過ぎた彼が本性でも出して、恋人を幼児扱いしたのが原因というところだろう。確かに男にしてはチワワかと思う程に小さい奴だが、その事を気にしているのは誰よりも知っているだろうに。

否、他人と違って、本気であいつが可愛いと思っているのが原因か。

今日の昼飯も見送りかと、熱々に湯気の立つ其れを名残惜しいが友人に押し付けた。

「なんでなんで?! 私はただ、妹子に虫歯を作りたくないだけで!」

「歯垢で虫歯にはならないだろ」

「う…うう、でもさ! ほ、ほらなんつーの? あの無防備に歯を開ける様が可愛いって言うか。あ、お前には見せないからな。だってさあ、右の犬歯は少し尖ってるのが舌に当たるのとかがぞくぞくするし、第三臼歯が生え始めてるのに気付いてさあ、もう私だけしか見てないのかと思うと興奮する」

「そうか、愛想を尽かす理由が分かると云うものだな」

お前みたいな変態、いつか見知らぬ土地で果ててくれ。

「やだやだやだ! 見捨てないで平田ざまあぁぁ!! 頭は来世で下げてやるからざあああ!」

「うっぜえええ!!」

たまたま白衣のポケットに入っていた物を、迫る顔に押し付ける。途端、絶叫が聞こえ、一足遅れに己の手を確認した平田は、あー…と気まずそうに呟いて眉を下げた。

「あー、うん、俺いい仕事したな」

「平田、お前っ!!」

「イケメンだぞ太子。来世で謝ってやろう」

顔に赤々と付いた上顎の型を見て、存外にすっきりした心に気付く。何でか持っていた模型に、ちょっとだけの寒気を感じつつも、少しだけ感謝した。

さてさて、こいつの嫁さんに弁解でもしてやっか。





「また、あいつは……!!」

沸騰するかという程に真っ赤にした顔を両手で覆ってしゃがみこんでいるこいつが太子の妻である。無論、少ないながらも常識を持っている事もある此の男は、そんな馬鹿な自称はしない。自称してるのは、本物の馬鹿の方である。

「いっつも、すみません……」

「や、いいけどさ」

太子と違って、礼儀を踏まえる此の男の事はそれほど嫌いでは無い。太子の恋人という時点で、頭に蛆は湧いてるのだろうが、まあ、それを除けば真面目で人の良い好青年である。平田の事を慕ってくれてもいて、事ある度に弟の様に可愛くも思っている。

「いやな、太子の話だと別に嘆く程の喧嘩じゃない気がしてたんだけど」

可愛い顔して、というのは何も女やチワワばかりでは無いのだろう。この男も、大概恋人に対して口が悪い。本気で怒ってる訳ではないのは太子自体が分かってればいいのだが、流石に自慢のもんをちょんぎるぞと大声で叫ぶのを公道で聞いた時は、全力で彼等と距離を取った。

「ええっと…それ、続きがあって…」

何やらもじもじと、言いにくそうに手をこまね始める彼に、平田は首を傾げる。

「その…いろいろあって、結局全裸でドアの外に追い出しちゃって…」

いろいろで、何故そうなった。

「あやうく警察呼ばれそうになったみたいで焦っちゃいましたよ」

あはは、と笑ってはいるが、こいつは恋人を犯罪者にしようとした張本人だと分かっているのだろうか。

「あ、そう…危なかったな…」

お前も多分、連行されたぞ。

「本当、馬鹿しかしないんだから…平田さんも、いつもすみません」

「本当に、いつもだよな…」

お前ら、俺の所に来た回数は既に三桁だろう。

思わず出た本音に、自覚があるらしき妹子は苦笑した。迷惑をかけたいとは持っていないのだが、長年の付き合いと、平田本人の持つ人を何処か安心させる雰囲気に、どうも二人とも甘えてしまうのだ。

「そうだ、お詫びに平田さん上がって行きませんか? 豪勢じゃありませんが、腕を奮ってご馳走しますよ」

「それはいいけど…」

俺は、食えない飯の為に上がりたくもないのだが。

「仕方ねえなあ…」





「あれ、い、い、いもこおおおおお!! お、お、お…!」

「あ、おかえりなさい」

「おどごのぐずがあああああ!!」

「馬鹿ですか、平田さんの靴ぐらい覚えて下さいよ」

「何回、此処に来てると思ってるんだ…つか、汚ねえ。早く戻せ」

何度、同じ事を踏襲する気か。いつものごとく見知らぬ男の靴を掴みながらリビングに駆け込んだ太子に平田は冷めた目線を送った。前に、それをリビングで落として恋人にフライパンを喰らった記憶はあるらしく、これでもかと靴を握りしめる所は流石、尻にひかれているだけはある。

少し見直したぜ太子。お前、学習能力という高度な物を持っていたんだな。

「ね、ねえ妹子。まだ怒ってるの…?」

靴を置きなおすや、しょぼん、と肩を落としながらキッチンを覗きこむ彼は、まるで茶碗を割った子供の其れと等しい。お前、何歳だ。

「怒ってやしません」

「ほ、ほんと…?」

「はい」

「じゃ、じゃあ、妹子の手とか触っても怒らない?」

「はい」

「抱きついても牛乳パックで殴らない?」

「はい」

「キスしても包丁、壁に突き刺さない?」

「はい」

「それ以上しても、翌日ベランダに放り出さない?」

「しませんよー」

小野、お前は一体何を命じたんだ…。其れは笑って否定できる内容か。そもそも、そんな光景を思いつかねばいけない様な生活なのかお前ら。本当にそれで、恋人と言えるのかお前ら。

「よがっだあああ」

ぐす、と鼻をすすらせながらキッチンに消える太子に、おそらく苦笑しながら慰めているであろう恋人の姿が簡単に想像できた。ああ、今夜はカレーにする気だったのか。何だかんだ言って、気にしていたのは太子ばかりで無いらしい。