ならば、仕方ない【太妹】
夫婦喧嘩の仲直りに、彼の好きな料理というのは構わないが、其れでよくも自分を招待する気になった物だ。
…今更、か。
「あー…、帰ろう…」
何か、やたらキッチンの方が静かなのは気のせいだろう。
水道では無い水音が聞こえるのも気のせいだ。
時折、詰まった様な声が聞こえるのも、全部全部が、気のせいなのだ。
「あー、満月かあ」
荷物片手に見送りなしのドアを開ければ、眩しい程の金色がまず目に入った。
とんと、気温の下がった昨今。夜空も澄み渡り、一層に月が明るいのだろう。
「やってらんねえー」
マフラーを無造作に巻きつつ歩き出せば、口調とは裏腹に何だか笑えていた。
作品名:ならば、仕方ない【太妹】 作家名:アルミ缶