籠を発つ鳥
序
☆
どうしてだったのかな。
『…っく、ふ……ぇっ』
薄暗い部屋の中、僕はベッドに俯せて。
泣くことしかできなかったなんて。
足首には細くも頑丈な鎖。
逃げる意志などとうに失せているというのに、あのひとは聞いてくださらない。
逃げたところで捕らえられ、連れ戻されるのは目に見えている。
先達て僕を逃がそうとしてくれた使用人が、暇という名の死を与えられたことを知っているから。
いつしか彼らは、僕に話しかけることすら恐れるようになった。
僕と言葉を交わしたことがあのひとの耳に入れば、何をされるか解らない。
自分の所為で他人の命を危険にさらすことを恐れ、僕も口を開かなくなった。
そうして僕は籠の鳥になり、あのひとの狂った愛情に体を貫かれる。
痛みと悲しみと、虚しさだけの篭もった熱に。
『籠を発つ鳥』