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喪失と再生のソネット

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「…ぁ」
「僕が、見えるの?」
「あなたは…誰?」
それはほんの偶然。
雲雀は偶々ここを通りかかかり、子どもは偶々ここへ迷い込んだ。
雲雀はぱちり、と瞬きをし、目の前の子どもをまじまじと観察する。
(…この子、この国の人間…?)
肌は透き通った雪のような白、唇は桜を思わせた。
それ以上に目を引いたのは、重力に逆らって逆立つ髪の色。
(……亜麻色だ)
大きく今にも落ちてしまいそうな瞳と同じ色。
しばらく雲雀の視線はその色に釘付けとなった。
「あ、あのっ…」
子どもの上擦った声で雲雀は我に返る。
「…何」
いつも通りに返事したつもりだったのだが、子どもには冷たく突き放すように聞こえたらしい。
みるみるうちに瞳に水の膜が張られた。
「ちょっと、何で泣くのさ」
「だ、だって…っ」
子どもはぽろぽろと零れる涙を服の袖で拭う。
「あぁ…そんな強く擦ったら…」
「ふ、ふぇ…」
「ほら、泣き止みな。僕は弱い奴が嫌いだよ」
雲雀はそう言って、子どもの涙を優しく拭ってやった。
「あ、りがと…ございます」
「君、名前は?」
雲雀の問いに子どもは「つなよし」と告げる。
すると、雲雀の眉がぴく、と動いた
「綱吉…?名前負けしてるじゃない」
「よく…言われます」
しょげる綱吉。雲雀はくく、と喉で笑った。
「まぁ、これから強くなればいいよ」
「…オレ、喧嘩は嫌い」
綱吉は拳をぎゅ、と握り締める。
「喧嘩すると痛いし…それに、」
相手を傷つけのは…もっと嫌だ。
「…ふぅん」
綱吉の言葉に雲雀は少し感心する。
(ただの平和主義、ってわけではないのかな…)
「あなたは…?」
「何が、」
「名前…教えてほしいです」
ちゃんと呼びたいから。
ふわり、春の微笑みを浮かべた綱吉。
――とくん、心臓が鳴った。
「特にないけど…周りは"雲雀"って呼ぶかな」
「ひばり……じゃあ、ひばりさんっ」
「どうしてさん付けなの」
「なんとなくですけど…ひばりさん、年上っぽいから」
そう言って、綱吉はえへへ、と頬をかく。
…先ほどから不整脈が治らない。
「…あながち、間違ってないけど」
「?」
「こっちの話」
自然に頬が緩む。
こんなに愉しい気持ちになるのは"狩り"の時ぐらいだ。
「そういえば君、なんでこんなとこに」
「…道に、迷っちゃって」
思い出したのか綱吉は眉を寄せた。
雲雀は少し呆れた表情だったが、「行くよ」と綱吉に告げて歩き始める。
どうやら帰り道を教えてくれるらしい。
「あと数分で森は暗くなる」
急ぐよ
そう言って差し出された掌を、綱吉は嬉しそうに握り締めた。

あれから数年経ち…

「雲雀さん雲雀さん」
今年で綱吉は数えて17となる。
雲雀も綱吉に合わせて成長し、よく綱吉の村を訪れては喋っていた。
綱吉には早い段階で自分は妖だと告げていた雲雀。
しかし綱吉の態度は以前と変わることはなかった。
すんなりと受け入れられた時には驚いたのを覚えている。
今日もまた、二人は初めて出会った場所で話をしていた。
「…何?」
「オレ、村を守る組織を作ろうと思うんです」
綱吉は雲雀の隣に腰掛けながら話す。
「こんなオレに、温かく接してくれた村のみんなに恩返ししたい」
「へぇ…相変わらず甘いね」
「それがオレですから」
ふふ、と笑う綱吉に雲雀は手を伸ばした。
ぽすん、
亜麻色の髪もあの日から全く変わった様子はない。
少し違うのは、同じ色の瞳に灯した意志の強さ、か。
「見ててくださいね、雲雀さん」
オレ、強くなりますから
綱吉は頭上に広がる空を真っ直ぐ見つめた。
…この幸せはずっと続いていく、と信じていた。
突然、目の前からこの子どもが消えるなんて脳裏をかすりすらしなかった。
人の儚さを、妖である雲雀は忘れていた。

作品名:喪失と再生のソネット 作家名:雪兎