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僕のリリーサー

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自分は一体何をしているのやら、と溜息が漏れる。
 謙也は財前に手を引かれて、小さな背中を見下ろしながら歩いていた。謙也さん自分で歩く気あるんすか、と振り返った財前がじろりと睨みつけるのを軽くあしらいながら、引き摺られるようにして歩いた。
 
 
 
 終着点は、通学路の途中にある公園だった。敷地内には滑り台と鉄棒と砂場、木製のベンチぐらいしかない本当に小さな公園だ。
 
 既に薄暗いこの時間に子どもの姿はなく、静まり返った公園の中で古ぼけたベンチを頼りない外灯がぽっかり照らしていた。
 
「何やねん、こんな所連れてきよって」
「別に。何でもないすよ」
 公園の入り口前で立ち止まっていた財前が再び足を踏み出す。手を握られたままの謙也も当然引っ張られて両足を交互に前へ出した。何でもないなら手離せや、と言えば、財前の手が殊更強く握られる。突っ込む気力もなく、謙也はただ手の痛みを噛み殺しながら後輩の後ろを歩いた。
 
 財前は外灯の下、ベンチの前で足を止めた。
 ようやく手を解放され、謙也は握られていて熱をもった手を擦った。赤く手の痕がついていた。どんだけ力入れてんねん、と独りごちる。財前は目の前のベンチにすとんと腰を下ろすと、謙也を見上げて左隣のスペースをぽんぽんと叩いた。
「何? 座るん? まあ、ええけど」
 謙也は怪訝そうな表情をしながらもその隣に微妙な距離を取って腰を下ろした。財前は隣に座った謙也の顔をちらりと窺うと、すぐにふいと顔を背けた。
(何やねん、こいつ)
 
 
 
 左ポケットから携帯電話を取り出す。こっそりと開いて待受画面のデジタル時計を見ると、何一つ言葉をかわさないまま10分ほどが経過していた。音を立てないようにそれを閉じてポケットへ戻すと、ちらりと財前を窺った。彼もこちらを見ていたらしく、一瞬目が合ったけれど、その目はすぐにふいとそっぽを向いた。
(ホンマ何なん、こいつ!)
 
「なあ」
「何すか」
「いつまでおんの? 用ないならもう帰るで」
 腰を上げると、瞬時に手首を掴まれた。僅かに苛立ちを感じながら振り返ると財前が縋るような必死な目で謙也を見上げていた。予想外の表情に、体が動かなくなる。
「嫌や。まだおってくださいよ」
 本当にこいつ、あの財前か? 明らかに何かおかしくないか。限りない違和感を感じながら、戸惑いつつももう一度腰を下ろした。
作品名:僕のリリーサー 作家名:mayuco