僕のリリーサー
「はあ? どないしてん、お前……」
謙也が座り直したことに安心したのか、財前の目が和らいだ。そして俯いて暫く押し黙った後、不満そうにぽそりと呟いた。
「やって、部長とばっかりおって、ズルイやん」
重たげな沈黙の後に吐き出された言葉は、あまりにも子どもじみていた。拍子抜けした謙也は、眉を顰めて財前の顔を覗きこんだ。
「はあー? しゃーないやろ、白石とは同じクラスやし。財前は学年違うんやから、部活ぐらいしか会わへんのは当たり前や」
「せやから、ズルイやないですか。俺のんが部長より謙也さんと年近いんやで。部長なんか4月生まれでしょ、謙也さんとほとんど1年違うやん」
俺なんかたった4ヶ月、生まれるんが遅かっただけやのに、不公平や、と言う彼の丸まった背中はしょぼくれた駄々っ子のようだった。
不覚にも、かわいいやん、なんて思ってしまったけれど、謙也は自分を叱咤するようにふるふると頭を振って、もう一度財前を強く見据えた。
「意味わからへん。お前が俺と話したくて一緒におりたい言うならおったるけどな、こんなとこに何もせんと黙ってぼーっと座っとるとか耐えられへんわ!」
財前が顔を上げて謙也の目を見つめる。負けじと睨みつけるものの、ぱちぱちと何度か瞬かれた彼の瞳は、何故か恥ずかしそうにふっと伏せられた。
「やって、こういう時、何しゃべったらええかわからへんもん」
またしても予想外の返答に、本日二度目の拍子抜け。俯いた財前の頬がほんのり赤いのは気のせいだろうか。謙也はぽかんと口を開けた。
不意に肩の力が抜けて、思わず声を上げて笑う。
「アホやなあ、お前って」
謙也さんのがアホやないですか、と大まじめに返されたのでやかましいわ!と右手の甲でツッコミを入れた。
「こういう時も何もあらへんやろ。何でも好きなこと話せばええっちゅー話や」
わかったか、と財前の眉間を指先で弾く。また何度か瞬いた後、まじまじと謙也を見つめていた無愛想な彼が、ほんの少し笑った気がした。
ベンチに置かれた財前の左手がずらされ、その指先が自分のそれにほんの少し重なる。初めて彼の体温を意識した。