僕のリリーサー
冷たそうだと思っていた彼の指は、意外にもあたたかかった。思わず口元が綻び、笑いが零れる。訝しげに財前がこちらを見遣ったが、謙也は構わず左手で彼の頭をぐしゃぐしゃと掻き混ぜた。やめてくださいよ、と財前が手首を掴んだが、構わず髪を乱し続ける。
「ホンマかわええな〜光くんはぁ。ははは」
からかうように言うと、財前の鋭く細められた目がじとりと謙也を睨みつけた。
「……謙也さん、俺より4ヶ月はよ生まれただけやねんから、あんま調子乗らん方がええすよ」
「は」
顎を掴まれて、固定される。何が起こっているかなんて理解できないうちに、財前の顔が近づく。
(あ、やばい、鼻、ぶつかる)
咄嗟に肩を竦めて目を硬く閉じた。器用に避けたのか鼻には何の衝撃もなかった。代わりに唇に柔らかい何かが押し付けられる。僅かに重なっていたはずの指はしっかりと絡め取られていて、触れた箇所からじんじんと熱かった。
心臓がやけにうるさく脈打っている。この音は財前のものだろうか、自分のものだろうか。開けるのを憚られる瞼の裏で、ぼんやりとそんなことを考えていた。