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【新刊サンプル】恋愛未満【APH・にょたりあ】

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恋愛未満 ―ぐるぐる狂詩曲―  (にょ仏×独)



 夕食の時間も過ぎた頃、唐突に鳴り響いた玄関のチャイム。誰だろうとドイツが考える前に、高く綺麗な声が響き渡った。
「ねぇ、プロイセンー」
 良く知ったその声は、自分ではなく同居している兄の名を呼んだ。声の主は兄の昔からの友人であるのだから当然の事なのだが、生憎、プロイセンは今出掛けている。
「兄貴なら居ないぞ、フランス」
 ドイツが扉を開けてそう告げると、目の前の美女はきょとんと自分を見上げた。青紫の瞳が印象的な彼女は、誰しもが美しいと形容するだろう容姿の持ち主だ。整った顔には化粧が施されているが、決して何かを誤魔化しているわけでもなく、元々の美しさを上手く引き立てていた。緩くウェーブのかかった榛色の髪は一つにまとめ上げて髪飾りを付けている。豊満な胸と対照的に細くくびれた腰、白を基調としたワンピースの中に隠されている、すらりと伸びた長い脚。理想的な曲線を描く身体は、常に周りの視線を釘付けにしている程だ。
 だが今その右手には、容姿にはアンバランスとも言える紙袋を二つ携えていた。片方の袋はいびつに膨れ、瓶の頭がいくつか覗いている。ラベルまでは見えないが彼女の手土産と考えると、ワインの瓶なのだろう。もう片方は酒のつまみだろうか。
「えぇー、いないの? ……もう、重かったのに」
 こんなに大荷物で来たというのに、何の約束もなかったのか。ドイツが半ば呆れていると、フランスはそのまま家の中へと上がり込んで来た。
「まぁいいわ、だったらお前が付き合ってよ、ドイツ」
「……は? あ、おい!」
 すれ違いざま、香水の匂いに交じって微かに酒の――ワインの香りを感じた。顔には出ていないが、酔っているのだろう。何があったのかは知らないが、ドイツは無碍に追い返す事も出来なかった。女性をこの時間に一人で外に放り出すのは抵抗があるし、何よりこんな状態の彼女だ、放っておけば何をしでかすか分からない。
 ドイツは溜息を吐いて、仕方なく彼女を追ってリビングへ向かった。

*

「……嘘」
 フランスは立ち上がり、ドイツの隣――彼が座るソファの僅かに開いた空間へと身体を滑り込ませた。そして身を乗り出して彼の顔を至近距離で見上げる。ドイツは逆に身を引いて距離を取った。
「な、なんだ」
 彷徨った視線が、一点で止まる。ワンピースの胸元から覗く豊かな胸の谷間に思わず目を奪われ、慌てて我に返り視線を反らした。
 フランスは更に身を乗り出し、鼻先が触れそうな程にまで近付いて来た。
「ふ、フランス! 離れっ、当たっ……」
 ドイツは更に身を仰け反らせたが、狭いソファでは限界がある。密着する身体に伝わる柔らかな胸の感触が更に動揺を煽った。鼓動は速くなり、顔に熱が上がる。
 ドイツは腕を伸ばしてグラスをテーブルに置き、それからそっとフランスの肩を押し返そうと手を掛けた。しかしそこに、フランスの手が重ねられる。
「なぁ、お前さ……お姉さんの事、好きでしょ」
「何、を」
 形の良い唇をニィと吊りあげ、細い指先がドイツの手をするりと撫でた。
 その間にも、視線は絡み合ったまま外される事はない。
 誘うような仕草に――いや、実際誘っているのだろう。逃げ出したい気持ちにもなったが、艶を帯びた表情から目が離せない。
「欲しい?」