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【新刊サンプル】恋愛未満【APH・にょたりあ】

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恋愛未満 ―ふわふわ夜想曲―  (普×ろしこ)



 ――イライラ、する。



 この酷寒の地に来てからどれほど経ったのだろうか。広い屋敷の一室、自分にあてがわれた広い部屋。柔らかなベッドに腰掛けて、プロイセンは乱暴に白銀色の髪を掻きあげた。ここに来るきっかけとなった人物は、今は忙しいのだろう、あまり顔を出す事はなかった。
 他に同居している者も屋敷にいるが、話したのも最初の方だけ、今は食事の時に顔を合わせるくらいか。
 仕事以外の大半を、プロイセンはその部屋で過ごしていた。出来ることならば誰とも顔を合わせたくなかった。先の争いでは、多くの物を失った。プロイセン州は解体されたし、大切な弟とは離れる事になってしまった。勿論、犠牲を払ったのは自分達兄弟だけではない事くらい理解しているが……。
 それにしても、とプロイセンは思う。運命とは何故こうも、徒に人を翻弄するのだろうか、と。州の解体を宣言された時に、死をも覚悟していたというのに、今自分はこうしてここにいる。
 それは喜ぶべき事なのだとは、言い切れない。今の自分の存在理由はなんとなく分かってきた。けれど自分の置かれた立場に、行き場のない苛立ちとやるせなさを抱えていた。
 生きているというよりは、生かされているとしか言えない状況。それが何にかと問われれば、それこそ運命なのだろうか。自分は人ではなく、国――だった者、だけれど。
「……ヴェスト」
 今は遠く離れたところにいる弟の、名を口にする。いや、正確には名前でなく、自分だけの特別な呼び名。
 届くはずもないその声を、彼はさらに追いやるように溜息でかき消した。



*


「はっ、仲良く、ね……」
 プロイセンは口元を歪め、嘲るように言った。ロシアは怪訝そうに首を傾げる。
「仲良くするなら、もっと手っ取り早い方法があるだろ」
 プロイセンはロシアの肩を掴み、ベッドへと押しつけた。シーツの海に、長い髪がさらりと広がる。
 ロシアに覆い被さるようにして見下ろすと、彼女は紫の瞳を丸くしていた。そこに映る自分の顔は、予想以上に冷たかった。