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addict

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昼休み、授業から戻ってきて職員室の机に教科書やらプリントやらを置き、備え
つけの美味くもまずくもないインスタントコーヒーを淹れる。匂いはそれとなく
本物に近いが、一口含んでみるとやはり所詮はインスタントと言いのけてしまえ
るような味だ。上辺だけの味、とでも言うべきか。湯気の立ち上るカップ片手に
机まで戻り、置いてから弁当を出す。実家からは何も支援してもらわずに、自分
で稼いだ分で遣り繰りしていた。といっても普通に生活している分ではあまり金
を使わないので、意識して質素な生活を送らずとも大丈夫だろうとは思う。でも
、金はいくらあったところで困らない。それに、現人が一人暮らしをするように
なってから客が来るようになって、多少金がかかるようになった。来るとなると
色々と準備があるから大変で、相手は結構な潔癖症だから掃除はしないといけな
いし、食事は用意しないといけないし、風呂も焚かなくてはいけない。勿論食費
、光熱費はこちら持ちだった。こんなに色々しているのだから、そろそろ大江家
と財産をくれたっていい気がする。実際、背中を流すという所謂ご奉仕をしつつ
ねだってみたことだってあったが、かわされてしまった。全く、いい歳して生前
優しくて綺麗だった母親に執着してるおっさんのくせして喰えない。もう一度ゆ
すってやるか、強引に。などと考えながら弁当をつつく。中身はというと、客で
ある幹孝の為に用意した食事の残りに白米を添えただけのものだ。母親が作った
もの以外は美味しくないらしく、一度も美味いと言われたことはない。確かにプ
ロ級に美味しく作れるわけではないが、不自由なく食べられるくらいのレベルで
はあると思っているので、ずっとまずいと言われ続けるのは釈然としなかった。
だから本当はどんな具合なのか、同じ食物を胃に入れて確かめてやろうと思った
のも昼を自家製弁当にするようになった理由の一つだった。弁当の中からおかず
を摘まみ、咀嚼する。作った時に味見した時と変わらぬ味が口内に広がる。過不
足なく満足して食べられる味。美味しいと口にしない理由を知れど、どうも釈然
としないまま飲み込んだ。まずいまずいと言いつつも全部綺麗に食べるのだから
いいか、とも思うがそれなりに金と時間をかけている以上ぎゃふんと言わせてみ
たい。そこまで考えて、ふと実際にぎゃふんと言っている幹孝を想像してインス
タントコーヒーを吹きそうになった。危ない危ない。あのしかめっ面でぎゃふん
はないわー、などと思っていると購買で買ってきたパンを広げようとしている斜
め左の女教師と目が合った。目が合うなり、くすくす笑い出した。
「ふふふ、津野田先生大丈夫ですか?何か堪えてましたけど」
「ああ・・・・っげほっ、大丈夫です、ちょっと思い出し笑いを」
咳払いしつつにこやかに対応する。うっかり吹き出したりしなくて本当によかった。
顔が丸潰れになるところだった。
「分かります、たまにやりますよね。あ、そうだ先生、今日皆で集まって飲み会
やろうっていってるんですよ。今月から非常勤で来てる箕輪先生の歓迎会も兼ね
てってことなので出来ればちょっとでもいいので顔出してもらえればと思ってる
んですけど・・・」
表面の良さのせいか、たまに来る飲みの誘いは正直迷惑だったが、その中でもど
うしても断れないものがあった。あまり職場で波を立たせたくない。目をつけら
れるようになると色々と面倒だ。水面下で行動できなくなる。それを防ぐ為に、
必要最低限の人付き合いはしなくてはならない。
「分かりました、行きます」
現人が快諾したのを確認して、女教師はほっとした顔をする。しかし若干、いや
かなりタイミングは悪かった。今日は幹孝が来る日だったからだ。挨拶して早め
に抜けて、温めれば食べられるようにしておいたおかずとご飯と味噌汁だけぱぱ
っと作れば何とかなるか。多少文句は言われそうだが、その分は他でフォローす
ればいいだろう。大まかに家に帰ってからの段取りを考えつつ弁当を食べ終えて、
一息つくと次の授業の準備をした。







一日の業務が終わった後、飲み会をする際に贔屓にしている店に集まって、ほど
なく始まった。普段一人であまり酒を飲まないせいなのか、喰えない男とばかり
接していて疲労が溜まったのか、気がつくと場を盛り上げていて、酒も勢いよく
飲んでしまっていた。けれど刷り込みというのは恐ろしいもので、視界に入ると
時計を確認していた。まあ健気なこった、と自分でも思う。あんなしかめっ面の
おっさんを利益を得る為とはいえよくもまあ好きでもない癖に尽くしている。自
分から。何だか無性に滑稽に思えてきて目の前にあった酒を一気に飲み干した。
子供を甘い言葉とお菓子で誘惑して、うんと甘やかして肥やさせたところを喰ら
おうと計画する魔女のポジションにいる筈なのに、完璧になりきれていないのは
知らぬ所で服の裾がどこかに引っかかっているかのように、何かが引っかかって
いるせいで、どこかしらで上手に立たれているような気がしなくもないからか。
認めたくないが。酔いが回ってきた頭で朦朧とした中考えつつ、また新しく酒を
注いで飲む。時計をちらと見ると飲み会前に自分で帰る時刻と決めた時間になっ
ていた。やばい、抜けないと。グラスを置くなり素早く身を整える。飲み代を出
して、わずかに足元をふらつかせながら立つ。
「あっ、津野田先生お帰りですか」
「はい、すみませーん途中なんですけど・・・・飲み代置いといたんで後はよろ
 しくお願いします。お先に失礼しますー」
「お気をつけてー」
へらへら笑いつつ会釈をする。靴を履いて店の外に出た。コートの上に追い被さ
るようにして冷気がやってくる。酔いで火照った顔が冷まされる感覚を抱きなが
ら、灯りの少ないあぜ道をやや早足に歩いた。早く来ることは今までなかったの
で大丈夫だろうと考えて、急ぎつつも安堵しているところでふと立ち返る。安堵
?一体何に?そもそも自分で頼まれてもないのにやっていることじゃないか。用
意されてないからといって幹孝がとやかく言う確証などない。幹孝は黙って現人
の行為を受け入れるだけだ。利益を得るのに最低限必要なのは何だ?世間に広く
知り渡らないようにした上で狩りをすること、いい歳こいて元気な下のムスコの
世話をすることだ。家政婦でも、妻でもないのに家を暖かくして待ってる必要な
どない。最低限のことをするだけでいいのなら、引き返してもう少しだけ酒に溺
れてしまおうか。それで帰って会うだけ会って後は幹孝のムスコ次第だ。かつて
現人が大江邸に直々に向かっていた時と同じだ、何の問題もない。そう考えてい
るなら早く歩みを止めてしまえばいいのに、酔いでわずかにふらついた足は止ま
らずに家へ真っ直ぐに向かう。引き返したところで何も満たされるわけじゃない
のは本心では分かっていたらしい。身体は酒で満たされる。だからといって自分
から進んで居続けたいと思える場所じゃなかった。じゃあ、今すすんで早足で家
に帰ってるということは、本当は出迎える用意もどこか楽しんでやっていて、勿
論幹孝の訪問は満更でもなく受け入れているということになるのか。いやいやそ
作品名:addict 作家名:豚なすび