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addict

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んなことはない。一番欲しいのは尊也だということを幹孝との行為の中で尊也を
投影した積み重ねが、肝心なところまで塗り替えてしまっているんじゃないか。
「・・・・んなわきゃねーだろ、」
そうだと認めたところでどうしようもないと地面に向かって吐き出す。嘲笑を浮
かべた。乾いた笑いが小さく漏れる。立ち止まった先の階段を昇れば部屋だ。こ
のまま部屋に戻って、何食わぬ顔して準備をするのか。幹孝に毒されているのを
気づかぬフリをして。惹かれて、思いを伝えれば通じ合えるような相手はいらな
い。結局好きになることもなかった。荊の棘に刺され、傷つく道を二度も選んで
しまった。だからといって潔く認めて行為に表すのはやったところでとうに逝っ
てしまった母親にただならぬ愛情を注ぐ究極マザコン男には無駄だ。しょうがな
い、今出来ることといったら予定通り準備をすることだと思い切って、頭を上げ
て部屋の方を見ると明かりがついていて驚く。まさか、もう来ているのか。予定
より1時間も早いのに。何で今日に限って、と飽きれと怒りと焦りが混ざった心中
のまま錆びた鉄階段を音をたてて駆け上がる。
「・・・ッ旦那!?来てるの!?」
バタンッと乱暴にドアを開けてみると、黒のロングコートを身に纏ったまま文庫
本片手に座っていた。足元に巻いてきただろう白マフラーが横たわっている。
「・・・見た通りだが」
息を切らしながら矢継ぎ早に尋ねた現人とは対照的に落ち着いた声で返答が返っ
てくる。何で居て当然、みたいな顔してるんだよ。まだ約束の時間じゃないぞと
胸中で愚痴を吐きつつ、靴を脱いで部屋に上がった。おもむろにコートを脱ぎつ
つ、ちらと幹孝を見る。肥やして喰らう為でも、もう何でもいい。甘い言葉もお
菓子もあげたいと望むならいくらでもあげてしまえ。迷わなくていい。渡す手の
中に忍ばせていた毒の分の半分くらいを未発達で行き場のない想いにするだけの
ことだ。半分の毒は想いに気づかれた時の為に残しておく。不安定な想いに締め
付けられて苦しくなってどうしようもなくなったら予定通り殺してしまえばいい。
いわば予防線だ。
「旦那、コート脱ぐなら預かりますけど」
文庫本からわずかに目を逸らしてこちらを見るなり、コートを手渡す。それをハ
ンガーにかけて、ヒーターをつける。
「いやー、でもびっくりしたっスよー。だって何にも言わないで早く来てるんだもん。
 まだ何も準備してないんでちょっと待っ―――っあ」
突然視界がぐらっと揺れて、膝立ちするような体勢にされた。一つに纏められた
黒髪の先端部は幹孝の手の中にある。
「酒臭いな」
「飲み会だったんだよ、本当は関わらずにさっさと帰ってきたかったけど無理だっ
 たんですー。ま、久々酒飲めたのはいいけど」
てっきりもう手放してくれるのかと思っていたのに反して、幹孝はまだ現人の髪
を掴んだまま離さない。体勢的につらいので解放してくんないかな、と思ってい
ると目を眇めて意地の悪い笑みを作るなり言い放つ。
「しかし随分色々と私が部屋に来る前に支度していたようだな、現人?殊勝なこ
 とだ。唯一無二の親友の実家を乗っとる為に身体を差し出して、その上ここまで
 やるとは」
幹孝が予定より早く来ていたことばかりに気を取られていて、事前に毎回それな
りに時間をかけて出迎える用意をしていたのが露見してしまったことを知る。作
為的にやっていたことは黙認されていただろうが、改めてやっている事を言葉に
されて、手に取って眺められるような心地がして思わず歯軋りした。檻の中の動
物のような気分だ。憎悪、羞恥、恐怖に苛まれたって決められた場所でうずくま
るか、ひたすら鉄格子を引っ掻いて喚き叫ぶことしかできない。自分の作為的な
行為を知ったところで、道端の石ころを蹴飛ばすように笑われるだけだ。豪奢な
食事の並べられた、立派な長テーブルのクロスを引き抜くと、蝋燭は倒れて燃え、
グラスは破片を雪のように散らし、皿はどれも見るも無惨にひっくり返って零
れたワインと共に染みをつくる。そんな風に、夢のような風景は壊されて、あと
はそれとは対称的な、蝋燭の灯り一つ灯らない、どうにもならない現実が残され
るだけだ。
「・・・・っくぁはははは、そんなさぁ、わざわざ確認するみたいに言わなくた
 っていーんじゃないの?知られてることくらい分かってるって。で?馬鹿馬鹿
 しいからやめろってんならご所望の通りやめるけどどうする?まあ俺としては
 面倒だしやめる方向で―――」
ちらちらと顔を出そうとする本心と、それを押し込もうとする仮初めの想いがな
い交ぜになっていく。本心は拙くて未発達でどうしようもなくて、見せたところ
ですぐに拒否されることは知っている。だから幹孝にとっても今までの相互利用
関係を保てる仮初めの方が都合がいいから、そっちだけずっと見ていて欲しいと
思うのに同時に何処かで本心に気づいて欲しいという素振りを見せたくなるのが
嫌だ。来るな、お前が心底憎いんだ!そう叫んでるのに、頼むから、本当の気持
ちも捨てないでとも叫んでいるようで。二つの波が交互に襲ってくる。まるで、
やかんに水を一杯に入れて、ぶくぶくと泡が立って湯気が濃霧のように立ち上っ
ていても火を止めずにほっといてあるかのようにぐらぐらした心のままでいると、
髪から手を離して肩に回るのが分かった。ぐっと引き寄せられて、噛みつくよう
にキスをされる。
「・・・・中も酒臭いな。どうも人臭いのも気になる。私も風呂に入りたい」
唇の肉を貪り合った後、唾液が糸を引きながら離れていく。それがぷっつり切れ
た後、幹孝にそう言われて、最初一体何を言っているのか分からなかった。とり
あえず風呂には入りたかったので、今更酔いがぶり返してきたような頭のまま風
呂の栓を閉めて、ボタンを押したところではっとする。今までそうだったように、
此処に来てから風呂に入るのを幹孝が望んだということは―――・・・。いや
でもそんなわけは。でも、リバースされると思っていた本心の欠片は返ってこな
かったじゃないか。受け止められたのか。それともどこかにいってしまったのか、
などと俊巡している間に風呂が焚ける。
「旦那、風呂焚けたけど・・・・」
動揺しているせいからしくもなく遠慮がちに尋ねてしまう。なのに、動揺させた
張本人は部屋に来た時と同様何事もなかったかのように文庫本を読んでいた。少
し悔しいような、腹立たしいような、でもどこか負けたような思いがする。
「分かった」
文庫本を閉じて、備え付けの簡素なちゃぶ台の上に置く。入れ替わりになるよう
にちゃぶ台の前で腰を落とすと、風呂場に行ったはずの幹孝がこちらを見ている
のが分かって振り向く。せっかく沸かしてやったんだから早く一人で入ってくれ
ばいいのになどと思いつつ。
「なーんスかーだんなぁー。もう、帰ってきてから休めなかったんだからちょっ
 とくらい休ませてくれたってい、」
「さっきから酒臭いと言っているだろう。私はこの臭いが嫌いだ。だからお前も
 風呂に入れ。・・・・髪の臭いは私が落とす」
足音が遠ざかっていく。更衣室のドアが閉まるのが聞こえた。言われるがままに
作品名:addict 作家名:豚なすび