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祈り~アレルヤ

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決戦で戦闘不能に陥り、敵として闘ったパイロットがマリーだと知り、更にはハレルヤを失うという事態になって。
 意識を取り戻した時、アレルヤ・ハプティズムは何処かの部屋で身体を拘束されていた。
 僕は……、生きている? それとも…夢?
 ズキリと痛む額に、これが夢などではなく現実だと知る。そして、香る消毒薬の匂いから此処が何処かの病院の病室で、しかし組織の病院ではないのだとも。
 組織の病院であれば、例えマイスターと知らなくても組織の構成員であれば、いや、少なくとも余程の事がなければ、患者をベッドに縛り付けるなんて真似はしないはずだ。自分が意識を失ったまま、拘束しなければならないほど大暴れしたなんて、考えるまでもなく馬鹿馬鹿しい話だ。
 尤もハレルヤがいたならば有り得なくもないけれど。が、こうしている今、いつも感じることの出来た彼の存在を、どんなに呼び掛けても「先にいく」と言った彼の言葉のままに、アレルヤは感じ取れずにいる。
 そうなれば答えは自ずから導かれる。此処は敵地であり、己の立場は捕虜である、と。
 此処で目が覚める前の最後の記憶は、キュリオスから太陽炉を切り離した所まで。よもや生き延びるとは思っていなかったアレルヤは、せめて太陽炉だけは仲間に返そうと、大量の出血のためか寒くて思い通りにならない手と霞む視界の中で、コンソールパネルを操作し、漸くの思いで太陽炉を射出したのだ。
 マイスターとしての本能だったのか。それは無意識に近い行動だったけれど、こうして捕虜になってしまった現状を思えば、それは間違いなく正解だった。あのままだったなら、大破したキュリオスと共にオリジナルの太陽炉が国連軍に渡ってしまっただろう。 
 太陽炉はソレスタルビーイングの極秘中の極秘事項。まさに生命線だ。その漏洩という最悪な事態だけでも阻止出来たのなら上出来だろう、とアレルヤは少しばかり安堵の溜息を吐いた。


 
 僅かといえ安堵したせいか。再びズキリズキリと鼓動に合わせるように激しく痛む額。一体自分はどれぐらい意識を失っていたのだろう。
 回復力が常人より高められた超兵の身体をもってしても、これだけ傷が痛むのだ。そう長い間ではないと思うのだけれど。
 生憎痛みと拘束されている事により身体は殆ど動かず、僅かに動く首を巡らしてみても、白い天井と壁、それから逃走を阻む為のものだろう鉄格子の嵌められた窓が見えるだけ。それらはアレルヤに何の情報も齎してはくれなかった。
 唯一、判るのは青い空。それでここが地球か建物の外にも空気のあるコロニーだろうと予測出来た。空気があるのは有難い、と状況的にそれだけでも感謝しようと思ったその時。
 瞳の端にふいに写ったものに、アレルヤは瞠目した。
 病室の白と空の青。それしか色のない空間に、突然映りこんだ薄く淡い色。はっきりとした輪郭は掴めないけれど、ふわりふわりと舞う薄紅色。
(サ……ク、ラ?)
 そう、それは何時だったか、経済特区・日本に潜伏していた刹那が見せてくれた映像の中で咲き誇っていた『サクラ』という樹木の花弁のように見えた。
 映像には沢山のサクラが咲く『サクラナミキ』があって。はらはらと舞うように散りゆく様は宇宙では決して見られない美しさがあって。あまりの美しさに魅入っていたら、日本ではサクラが愛されていて、サクラが咲くと花見と称して宴会を開く事が多い、と刹那が言葉少なに教えてくれた。
 こんなに綺麗な花を愛でながらの宴会だなんて、羨ましいね。凄くスメラギさんやイアンさんが喜びそうだし、いつかトレミーの皆でやりたいね…。
 叶うとは思えないけれど、たわいのない言葉の遣り取りをした。世界中を敵に回した闘いの中での、数少ない優しくて綺麗な記憶だ。
 しかし、記憶の暖かさとは裏腹に、アレルヤは身体をビクリと震わせた。
 そうだ。トレミーの皆は? どうなった? 刹那は? スメラギさんやラッセ達は? 
 そして…―――。
 そして、彼は?
 いつもサクラの花のような綺麗な薄紅色のカーディガンを好んで着ていた、誰よりも何よりも愛しくて、己よりも大切な彼ーーティエリア・アーデは……?
 ティエリアの機体のナドレが大破したのは、ハレルヤの意識の底で知った。けれど、それ以降の事が判らない。
 ナドレが大破したなら、コックピットは? ティエリアは怪我をしていたのでは無いだろうか。
 生きているのだろうか。こんな風に捕まってやしないだろうか。
 さらりとした濃紫の髪が、白くて綺麗な彼の容貌が鮮血に染まり、極上のワインよりも深い紅の瞳が色を輝きを無くしていく様が脳裏を掠める。紫のパイロットスーツに包まれた細くて華奢な身体が、暗い宇宙を漂う姿が何も存在しない筈の空間に浮かんでは消える。それは一番考えたくない、恐ろしい光景。
「っ!!」
 いやだっいやだっいやだっいやだっ!!
 アレルヤは悪夢のような光景を振り払うように。声にならない悲鳴を上げ、頭を振り、動かない身体を捩った。拘束具が身体に食い込み、額の傷は勿論、恐らく身体中にあるのであろう傷が酷く痛むけれど構いはしない。寧ろ痛みでその光景を消そうしているかのように、アレルヤは呻き続けた。

 

 どれくらい、そうしていただろう。アレルヤの額には汗が滲み、汗に濡れた前髪が張り付く。激しく動いたせいか、ふぅ…と吐き出した呼気は酷く熱く、額の痛みは一層増したけれど、アレルヤを苛んだ恐ろしい光景は再び無機質な空間へ戻っていた。
 ティエリア。ティエリア・アーデ…。
 大切な名前を吐息のような声で呟き、アレルヤは思う。
 自分はもうすぐ、この額の傷が癒えるか否かには、捕虜として尋問と拷問を受けるだろう、と。
 遠い昔に締結され、今でも時代に合わせて変更が加えられているというジュネーブ条約。それには捕虜に対する拷問の禁止や生活・人権の保護等が記載されている。
 が、それが全世界を敵に回したソレスタルビーイングの、しかもガンダムマイスターに適用されるはずも無い。
 いや、適用して欲しい等と甘いことはアレルヤ自身、少しも考えていなかった。捕虜になった場合そうなることは覚悟の上であったし、それだけの事をガンダムという機動兵器に乗ってやってきたという自覚はある。
 また、こんな時に備えて、拷問に対する訓練や自白剤などの薬物に対する耐性もある程度備えている。薬物を使われようともマイスターの意地と誇りにかけて、仲間や組織の事を白状するつもりは毛頭ない。
 ソレスタルビーイングほどの医療・技術力を持っていなければ、脳から直接はっきりとした情報を読み取られる可能性は低いだろう。
 そして、条約も適用されず、情報も齎さない捕虜の末路は、死。
 本来なら捕虜になるより、ガンダムそのものの機密をも守るべく自爆を選ぶべきがマイスターだが、アレルヤは自分から死を選びは出来ない。死ぬのが怖いのではない。今、生き延びているのは、自分の分身であるハレルヤが守ってくれたからだ。誰よりも生きることを切望した彼が助けてくれたのだから、自ら生を終わらせる訳にはいかなかった。
作品名:祈り~アレルヤ 作家名:瑞貴