Absolution
その彼女がニュースソースならば、皆が知っていてもなんら不思議ではない。
幼い頃からハレルヤと二人、いつもこっそり「おめでとう」と言い合うだけの日。CBに入ってからも秘匿のためにそれは変わらず、唯一スメラギに言われた時は同胞殺しの咎と、苦いと感じる酒と一緒に飲み込んだ。
その後はつい最近まで捕らえられていた身だ。当然誕生日どころか日付の感覚すら無くなっていた日々では、当然誕生日なんて全く縁のないものと化していた。今の今までスメラギに話していたこともすっかり忘れていたし、まさかこういう状況が出来ているとは思わなかったのだ。
そして、花束を手にしたまま周囲を見遣れば、ロックオンはスメラギやラッセと早くも酒をグラスに注ぎ始め、刹那とティエリアは、無愛想な表情そのままに壁に寄り掛かっていた。
しかし、無愛想であってもこの食堂に居て、刹那の、一番規律を守り、こういう騒ぎが苦手な筈のティエリアの手には使用済になったクラッカーが二つずつ握られていて。
(ああ…そういえば、食堂へ来るように通信してきたのは、ティエリアだったっけ)
それを思い出して、ライルは兎も角、刹那とティエリアの二人も、少なくとも無理矢理ここにいる訳ではないと判る。
祝福されて、いる―――。
超兵という兵器に改造された、人でもない人間。
稀代の殺人者。
地球全土を敵にしたテロリスト。
自分を形容する言葉に綺麗なものは殆どない。どう考えたって、普通の、まっとうに生きている人間へのものではないものばかりだ。だから生きて良いのか迷う事だって、死を受け入れた事だって何度もあった。
『アレルヤ』も『ハレルヤ』も神に感謝する言葉で、生きている事に感謝するのだとマリーに教えて貰ったけれど、どんなに感謝をしてもきっと神は自分達――人間のエゴによって造り変えられ、自然の摂理をねじ曲げた存在を許しはしないだろうと思っていた。
けれど、それでもこうして嬉しい。祝って貰えるのが素直に嬉しい。
自分が生きていても良いのだと、この世に生を受けたのは罪ではないのだと。そう認めて貰えているようで。
口々に「誕生日おめでとう」と微笑む皆の姿が滲むのは銀と金の瞳に浮かぶ滴のせいだろうか。今まで何度も流したものに比べて、それはなんて暖かいのだろう。
「…有り難う」
小さな花束を落ちる滴が冷たいだけでなく、暖かいものだと思い出させてくれて。嬉しくても流れるのだと、思い出させてくれて。
ソレスタルビーイングに参加したのは戦争を根絶を望んだから。今現在再びガンダムを駆り闘う理由は、アロウズやイノベイターから人々を、未来を守りたいから。
それは大きい目標だ。そして、それを目指す為にも、ここにいる仲間、いや、自分の存在を認めてくれる家族を守りたい。前のように誰一人失うことなく。
「有り難う」
アレルヤは仲間の笑顔に、贈られた花束に、流れる暖かさに決意も新たに呟くのだった。
作品名:Absolution 作家名:瑞貴