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 絶海の孤島。そんな言葉がぴたりと収まるような周囲を海に囲まれた島は、島全体が王家の別荘地だった。プライベートなど殆ど無いに等しい著名人やセレブと呼ばれる人々がお忍びで訪問しそうな緑豊かで南国リゾートそのものであるそこは、その実地上は王家の別荘地として豪奢な、どこかの城と言っても過言では無いだろう建築物があり、地下にはソレスタルビーイングの秘密基地が建設されている。地下への入り口は完璧にカモフラージュが施され、それと言われても判らない。
 この別荘に勤める大勢の使用人においても、ソレスタルビーイングに賛同している者ばかりであり、他はエージェントである王留美の極近しい者しか居ない。勿論、王家の情報網による厳しい身元調査も行われているという徹底ぶりである。
 活動を開始し、武力介入を宣言したソレスタルビーイングは、今や全世界を敵に回しているのだから、直接表だって手を下していないエージェントとはいえ、荷担している以上用心に越したことはなく、それくらいは当然の対策と言えた。
 そして、地上での任務を無事終了させ、事後処理と愛機ヴァーチェの整備を済ませたティエリアは、今回の滞在地に指定されたこの別荘の充てがわれた部屋に入ると、すぐさまベッドにごろりと寝ころんだ。王家らしく広くしっかりとした造りのベッドは、軋む音すら立てずティエリアの身体を受け止める。
 小さく形の良い唇から知らず漏れる溜息。体力の消耗が激しい、と感じる。任務で、ではない。
 ティエリアの地上嫌いの原因の大きな部分を占める重力が、ヴァーチェを降りた辺りから身体全体にのし掛かって、時間が経つにつれ疲労感が強くなってきたのだ。地上での疲れは任務によるものより、こちらの方が断然強いのだからティエリアにしてみればたまったものではない。エージェント所有の孤島なので、人混みや視線などの煩わしさだけでも辛うじて免れるのは幸いだけれど。
 トレミーも完全無重力ではなく、生活圏にはそれなりに重力設定がされている。けれど、常に重力にさらされなければならない地上とは大違いだ。折角首尾良く任務が終わっても――マイスターなのだから、任務成功は当たり前だが――、機嫌が下降線を辿っても仕方ないだろう。
 こんな時は無駄の極みとしか思えない豪華な食事など辞退し、昼間だろうと何だろうと時間など構うことなく寝てしまうに限る。
 ティエリアの地上嫌いはトレミークルーだけでなく、組織全体――エージェントの間でも有名だ。戦闘後の疲労回復はマイスターの重要義務でもあるので、それを理由に部屋に引き籠もった所で、誰に文句を言われることはない。
 そう思い、眼鏡を外すこともせず心身の求めに応じて紅玉色の瞳が姿を消しかけた時、コンコンと控えめにドアを数回叩く音がティエリアの聴覚に柔らかく刺激した。
「ティエリア? 居る?」
 組織の要であるガンダムマイスターであり、地上では格段と気難しくなるティエリアの私室を、連絡も入れずに直接訪れる勇敢な人間は片手にも満たない。そして、控え目のノックと同様に静かに届く声の主は、その数少ない中の一人アレルヤ・ハプティズム。
 確かアレルヤは任務終了と同時に帰投している筈だ。ミッションプランの通りに任務が遂行されたならば、帰投時間はティエリアと大差ないと記憶している。ならば、彼もスメラギ宛の報告などの必要事項は全て完了したのだろうと推測出来た。
 ノックや声が控えめなのはアレルヤの性格もあるだろうが、地上では宇宙にいる時と比べられないくらいに寝て――所謂不貞寝である――、不調や不機嫌をやり過ごすティエリアの習性を知っているからかもしれない。返事がなければ寝ているものとし、そのまま起こさないつもりなのだろう。
 これが刹那・F・セイエイやロックオン・ストラトスだったならば、そんな気遣いはされないであろうし、ティエリアとて無視してしまうのだけれど、相手はアレルヤだ。
 ティエリアはアレルヤと一緒にいると、地上での耐え難い不快感が若干緩和されるのを知っている。それが彼と自分が恋愛関係であるのが原因かどうかは不明だけれど。
 だから、疲労感の強い身体を引きずりつつ、今はとてつもなく重く感じる扉をゆっくりと開けた。
「お疲れさま、ティエリア」
 僅かに開いた扉の隙間から覗くのは、アレルヤの切れ長で一見冷たそうに見える銀灰色の瞳。しかし労いの言葉を口にしながら少し眉尻を下げて嬉しそうに微笑んだ途端、冷たさやキツさは欠片も残さず霧散してしまう。その笑顔はティエリアの好ましいと思う物の一つだった。
 ……やぱり疲れが軽くなる、な。
 ティエリアはアレルヤの微笑みを見て、他の者の笑みでは決して得る事の出来ない、ふわりと身体が浮くなるような感覚を覚えて、現象自体不思議ではあるが気のせいなどではないと改めて実感した。これだけでもアレルヤを無視せず、重い身体を引きずってでも自ら扉を開けただけの価値がある。
 自然顔が綻び、これからのじゃれあうような触れ合いに僅かな期待を乗せて、アレルヤを部屋に招き入れようと、ティエリアはアレルヤの正面から身体を少しだけずらした。
 しかし、ティエリアの予想に反してアレルヤは動かなかった。常ならば扉の前からティエリアが動くだけで、何も言わずともその意味を読み取って、遠慮がちであっても部屋に入ってくるのに。
「アレルヤ? どうした?」
 通常とは異なるアレルヤの様子をティエリアが訝しんで呼ぶと、アレルヤは笑みを眉尻を更に下げて申し訳なさそうなものへ変えた。 
「えっと、疲れてるところ悪いんだけど…」
「アレルヤ!?」
 控え目な口調の割に苦情を言う間もない。アレルヤに腕を取られたティエリアは、殆ど強引に部屋から連れ出されてしまった。
 そんなアレルヤの片手には、オレンジとティエリアの髪に似た濃い紫。それは間違いようもなく自分達のマイスター専用ヘルメットだった。
 新たな任務かと一瞬思うが、そんな筈はない。いくら地上にいるからと言って、滞在地は民間のホテルではなく組織関連施設である。ミッションならばマイスターのティエリアへミッションプランが直接、或いは間接的――例えば王留美を通して――であっても届くからだ。
 誰が任務に就くにしろ、ソレスタルビーイングのミッションプランは全てマイスターに連絡が届く仕組みになっている。急なミッションで連携が必要になることもあるし、あってはならないことだが、いつ緊急事態が発生するか判らない。
 だからこそミッションは全て把握し、すぐに連絡が取れるよう休暇中だろうと常に所在は明らかにしているし、携帯端末を所持しているのだ。なのに、何の連絡も受けていない。
 大体ミッションならガンダムを必要とするのに、搭乗にヘルメットだけで…などとという筈がないではないか。パイロットスーツは単なる制服ではないのだから。
 更にアレルヤの様子も常と違う。アレルヤはマイスターでありながら、ミッションに躊躇いを見せるきらいがある。特に多くの人命が失われると予報されたミッションに関して、とても顕著だ。けれど、今のアレルヤに憂いは見られず、寧ろどこか楽しそうにすら見えた。
 だが、ミッションでないとするならば、一体なんだというのか。
作品名:My Favorites 作家名:瑞貴