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 アレルヤの突然の行動に狼狽えている間に、私服のまま連れ出されたのは屋敷の外。組織関連のここは、警戒心のないままに外に出ても安全ではある。だが、ジャングルほどではないけれど、鬱蒼とした樹木独特の立ちこめる香りと、照りつける太陽に温度を高められたムワッとした空気が、外に一歩踏み出した途端身体に纏わりつく。ティエリアは思わず深く呼吸をしてしまい、暑い空気が喉に詰まったようで酷く息苦しかった。 
 



 
「うん、此処なら丁度いいかな」
 どれくらい走ったのだろう。暫く走ってようやく止まったかと思えば、頭上から満足そうなアレルヤの声。
 だからなにが良いのだっ!! と怒鳴りたいのに、喉が貼り付いたようになってしまい声が出なかった。しかもこちらは熱い空気に呼吸を邪魔されて、まさに息も絶え絶えな状態なのに、アレルヤはどこに隠し持っていたのか携帯用ボトルを差し出しながら「大丈夫?」なんて、自分は何事もなかったように、実際呼吸の一つも乱さず涼しげに聞いてくるのだから余計腹が立つ。
 ティエリアの体力が無い訳でも、訓練を怠っている訳でも、断じて無い。一般人やソレスタルビーイングの非戦闘員よりは勿論、マイスターとしてだって十分な体力は持ち合わしている。つまりはアレルヤが規格外の体力バカ過ぎるのだ。
 腹は立つが、ひりつくほどに喉が渇いているのは事実だったので、ティエリアは差し出されたボトルをひったくるように奪い、一気に飲み干した。
 ボトル一本分の水分を得てようやく人心地付くと、水分補給時には忘れていた怒りを思い出す。それでなくとも、ティエリアは重力が嫌いで、暑いのも寒いのも大嫌いで、だから地上は嫌いだと豪語している。その地上で任務直後にこんな風に走らされたのだ。いくらアレルヤとはいえ簡単には許し難い。
 重力を無視したように、ぶわりと黒紫色の髪が逆立つほど、怒りのオーラがティエリアから放出される。これだけで普通の人間なら怯え竦み上がるに違いない。が、怒りの矛先であるアレルヤは「うん、時間ぴったりかな」とか「これくらい暑ければ、多少は大丈夫だよね」などと、一人ブツブツ呟いていた。ハレルヤ相手の言葉なのか本当に独り言なのか判別は出来ないが、その空気の読めなさがティエリアの怒りを更に増長させるというのに。
「アレルヤ・ハプティ…ッ!? うわっ!?」
「ちょっと…ごめんね」
 そして、怒りが頂点に達したティエリアが声を荒げると、それを遮るようにアレルヤは手にしていたヘルメットをティエリアに強引にズボッと被せた。
「何をするっ!」
「そのままでっ!」
 確かにヘルメットは被るもので、他の使用方法は通常しないだろう。故に使用方法としては至極まともであるが、強引、且つ急なアレルヤの動きに、ティエリアは先程からの怒りもそのままに、顔を隠すバイザーを上げようとヘルメット側面のスイッチへ手を伸ばした。すると、今度は戦闘中以外滅多に聞かない鋭い声に制され、ティエリアの動きがびくりと止まる。
「ゴメンね。危ないからバイザーはそのままで、上を向いてくれる?」
 今度は何が危ないのだ。ヘルメットを被せて危ないと言うなら上空から落下物でもあるのか。それならば上を向くより回避するべく行動するべきではないのか。それが妥当な筈だ。それでもアレルヤは動かず上を向けと言う。
 次から次へとティエリアには理解不能な事ばかりするアレルヤに苛立ちと疑問は尽きない。が、ここまで振り回すからには、何かしらの理由があるに違いない。
 これで下らない内容ならば鉄拳制裁くらい下される――鉄拳で済めば良いが――のは、ティエリアの性格を良く知るアレルヤも覚悟しているだろう。そう判断して、制裁か否かの判断を下す為、ティエリアは上を向いた。
「え…」
 アレルヤに言われるまま上を向いたティエリアは、深紅の瞳を見開き、短く声を上げた。向けた視線の先、雲もなく遮る物が何一つない真っ青な空。そこから容赦なく熱と光を降り注いでいた筈の太陽が、僅かに欠けているではないか。
 更にまるでティエリアの声を合図とするかのように、太陽が徐々に欠けを大きくし、同時に二人の、いや、視界に入る地上はゆっくりと暗くなっていく。つい先ほどまでの昼最中の明るさは無くなり、太陽の欠ける様に比例して夜に、やがてコロナだけがくっきりと天空を彩るようになると、深夜のものへとそれは深まっていった。
 闇は本来の夜ではないせいか、地上でありながら星の瞬きはない。見たことはないけれど、墨を流したような闇もしくは真の闇があるとすれば、この状態を例えたのではないかと思えるほど只管に暗かった。異常と判断したのか、五月蠅いくらいに大きく聞こえていた鳥や動物達の鳴き声も、今は小さい。
 夜よりも暗い闇に伴い、火傷するのではないかと思うほどに暑かった気温が、グンッと下がるのを感じた。正確に何度下がったかは判らないが、少なくともティエリアにして『暑い』より『快適』もしくは『若干寒い』と感じるくらいには確実に下がったのだ。
 光と熱―――それは地球上の生きとし生ける物への『太陽の恩恵』。それが無くなれば、光も熱も当然無くなる。それが今の状態だった。
「これは…、皆既日蝕、か」    
「うん。丁度今日のこの近辺が、この時間には見られるって聞いたから」
 いつの間にかティエリア同様ヘルメットを被ったアレルヤが、無線越しだが嬉しそうな声で答える。バイザーのせいで表情は見えないが、きっと銀灰色の瞳を煌めかせてるに違いない。
 そうか。アレルヤはこれを見せようとしていたのか。
 100%の皆既日蝕。地上から見て月の見かけの大きさが、太陽を完全に上回った時にのみ発生する現象。金環蝕に比べるとかなり珍しい現象であり、100%で見るには地域と時間を完全に合致させなければならない。雲より上空にいない限り、天候は言わずもがなだ。
 日蝕があるのは、ティエリアにも情報収集の一環として聞く地上のニュースで見た記憶があった。何やら盛り上がっていたような気はするが、数日前であった為か、その後提示されたミッションプランに影響を及ぼさないものであった為か――恐らく後者であろう――、気にも止めなかったのだ。それが今日のこの時間・この地帯だったとは。
 そうして、ティエリア達が見上げる中、再び太陽がその姿を見せ始める。その瞬間には、神々しいまでに見事に輝くダイヤモンドリング。皆既日蝕という天体ショーの一番の見所だ。
「凄い。綺麗だね」
「……ああ、美しいな」
 実を言ってしまえば、宇宙に身を置き、しかもトレミーやガンダムで宇宙空間を自在に動き回るティエリア達にとって、所詮地上での天体ショーはそれほど珍しいものではなかった。
 何故なら、自分達の航行コースによっては、金環蝕などの日食に近い現象を目にすることがあるからだ。勿論グランドクロスのようなものに出会う事はないし、月ではなくスペースデブリによる時もあるので、厳密に触とはいかない。あくまで日蝕と似ているだけの話で、ダイヤモンドリングに至っても同じ事が言え、特に気に留めるでもなく、逆に戦闘中などには時折眩しさが忌々しいと思うこともあった。
作品名:My Favorites 作家名:瑞貴