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ドロー

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結局のところ俺はレッドには敵わないのだった。それは別にバトルに限った話じゃなくて(っていうかバトルに関しては俺は諦めていない)、たとえば普通に考えたらレッドのほうがはるかに世間一般の常識から逸脱した世界で生きている。俺はジムリーダーという少々特殊な職業ながらもしっかり自立し、かつ周囲にもそれほど心配をかけることもなくまともな生活をしている。世間的な信頼度で言えば絶対に俺>レッドなはずだ。にも関わらず俺はレッドの言うことなら多少ぶっ飛んだ頼みでも聞いてしまうし、レッドは俺や周囲の人のの些細な、たとえばもうちょっと頻繁に実家に戻ってくれとか。そういうのを簡単に一蹴する。したくないことはしないっていうその姿勢を、咎められる人はほとんどいないのだった。それはなんでかっていうとあいつの絶対的な強さとかそういうもののせいなんだけど、だから、俺はやっぱりレッドには一生敵わないんだろうなと思う。普通に考えたら俺のほうが付き合うにはいいし実際俺のがもてると思うけど、レッドの歴代彼女のほとんどが俺の元カノだった。俺を通してレッドと知り合って、レッドに惚れてしまうわけだ。俺のがもてるっていうのだって、レッドがもうちょっと人里に近いところで修行してたら覆るのかも知れない。恐ろしいことだけど。人当たりの良さと生活力以外にあいつに勝っているところって多分ここしかないので、なんとか死守したい俺だ。


朝、ジムを開けて、トレーナーたちが来るのを待ってから外に出たらレッドがいて俺は大層驚いた。すっかり顔見知りのピジョットがばさあ、と羽ばたいて俺に挨拶するので、俺も自分のピジョットを出してきてやると二人して空に舞い上がっていった。鳥でも散歩っていうのかな。散飛?まさか。レッドが帽子をとって少し頭を振っているのをぼんやり見ながら、俺は今日は挑戦者が来ないかトレーナーたちでとまってくれるといいなあなんてジムリーダーらしからぬことを考えていた。だってレッドが来たんだから仕方ない。レッドは帽子をかぶり直そうとして、やめた。

「…、久し振り」
「………おまえな、ここ、外!」

なんにも言わずにキスされて俺はまた驚いた。悪びれた様子もなく今度こそ帽子をかぶり直したレッドは、わかってるよと言ってすたすた俺の家のほうに歩いていく。ついていったら途中で振り向いて不思議な顔をした。この顔結構すきだなあ俺。
作品名:ドロー 作家名:たに