ドロー
「仕事は?」
「ああ、うん」
「…いや、うんじゃなくて」
「トレーナー来たらだれか連絡よこすだろ」
「……いいの」
「いいのって、だってさ」
「何?」
「レッドが来たんだから。しょーがねえよ」
俺んちのドアのまえで固まってしまったレッドをちょっとずらして、さっきしめたばっかりの鍵をあけた。もう帰ってきた俺をみてイーブイがびっくりしてる。あ、つまみ食いしようとしてたなこいつ。こらーって抱きしめたらきゃあきゃあ言いながら暴れた。俺の機嫌の良さが伝染してるみたい。ひとしきり笑って、レッドがあまりにもなんのアクションも起こさないので振り返るとまだドアの外で立ち尽くしていた。なんでだよ。
「なに、入れよ」
「………グリーン、」
「あ?っ、うわ!」
胸に抱いてたイーブイごと抱きしめられて、俺はそんなに苦しくないけどイーブイがきゅう、と肺の空気が抜けきったような声を出した。なんとか逃がしてやるとレッドを睨みつけてから奥へ引っ込む。ていうか俺たちも奥いこうぜ。ソファとかに座ろうぜ。何が悲しくて玄関先で男二人抱きしめあわなきゃいけないんだ。まだドアが少し開いてたので、俺は必死に手を伸ばしてドアを閉めて鍵をかけた。
「なんだよおまえどうしたんだよ…」
「しょーがないよ」
「…なにが?」
「グリーンに久し振りに会ったんだから。しょーがない」
レッドはまた帽子を脱いでそのへんに放って俺の肩口に額を押しつけた。髪がぺたんこになってる。ぐしゃぐしゃかきまわして直してやると、レッドは仄暗い赤さの目で俺をみた。相変わらず目の色は完璧にキレイだ。