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【APH】指先から広がる空間

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珍しく早起きした朝に、珍しく爪の色を塗ろうと思い立った。電気を付けずとも明るい室内がより一層映えるだろうという意図だけで購入したマニキュアの小瓶が色とりどりに並んでいる。普段デスクワークに追われている日常のためか、それらが使用された形跡は薄い。ベラルーシは小瓶が並ぶ列を左から順に見つめ、やがて透明のものだけを手に取った。
 開け放したままの窓では寒さの募る室内、それでも慣れてしまったせいかそれを閉めようという意思は湧くことはなかった。絶えず外から新しい空気が入り込む室内に、自分以外の寝息が木霊するのをまるでクラシックでも聞いているかのような感覚で彼女は目を細める。
 幸せの瞬間だった。先程まで体を休ませていたベッドへと視線を移せば、そこにはまだあどけなさの残る寝顔で眠りの淵にいる男の姿が見える。
 兄、と日頃からまるで家族のように呼ぶ男は大人とは思えない表情で自分のいない世界に身を寄せていた。自分のいない、と確定したような言い方をしたせいか若干の寂しさを募らせるものの、覗き込んだ男の表情を見て考えを改める。
 こうして彼が心の底から安心したような顔を自分に曝け出してくれることが、ベラルーシにとっては一番の幸せだった。昔から一人を嫌う男は、時折こうして自分を頼ってはこの家を訪れてくる。昔は同じ家に住んでいたためか、気兼ねのない場所なのだろう。ここで彼が気を張った表情を見せることは少なかった。尤も、ベラルーシの行き過ぎた恋愛表現に困惑を見せたりすることは日常茶飯事であったがそれでも今、彼は自分の領域に身を寄せてきている。彼を思う身であるベラルーシにとって、それは口の緩みを抑えきれない事実でもあった。
 金の装飾が施された蓋は、長年使っていないせいか少し堅さの残る回転だった。キュ、と金属同士の擦れ合う独特な音が響き、そのせいで彼の眠りが妨げられやしないかと冷や冷やした。蓋に付属されている細い刷毛に付着した液体の量を瓶の淵で調整する。つんとした匂いが立ち上り、一瞬の躊躇を生む。音といい匂いといい、そのどれもが彼を起こしてしまうことに繋がるのではないかという戸惑い。開け放たれた窓はその躊躇いをほんの少しだけしか薄くしてくれなかった。