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【APH】指先から広がる空間

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 どうしよう、とは思いつつベラルーシは未だ眠り続ける男の様子を横目で伺いながらもそっと親指に刷毛を滑らせて見る。慣れていないためか、爪に滑らせたはずの液体がはみ出てしまい皮膚に付着した。その冷たさの感覚がどこか心地の良いものだったことをきっかけにベラルーシは一つ一つ、気が付けば子供が絵本に没頭するかのようにベースコートである透明の液体を爪に塗布させていく。
 気が付けば両手の爪は、先程までの自然さを失い光沢のある輝きに覆われていた。程よく伸びた爪、自然の光に当ててみるとキラキラ輝くその光にベラルーシはうっとりと目を細める。常日頃から女性らしく振舞うような格好は心がけていたが、こんな風に指先を飾ることなど滅多にしたことがなかったのだ。どこか新鮮な気持ちでいっぱいだった。
 ベースの液体が乾くまでの間、時々手を自然の風に宛がうため振りつつも棚に並べられている瓶の中から色味を選ぼうと視線を移動させる。思いついた時に購入する程度のものだったためそれほどバリエーションがあるわけではないが、それでも列を成す瓶の中の色彩には青や薄紫など様々なものがあった。きっと実際に付けることを想定していなかったのだろう、いつ買ったかも覚えていないピンクや橙など凡そ自分には似つかわしくない暖色系のものまであった。
 出来るならば無難な色を、と目で選定しつつ指先の乾燥具合を確かめる。試しに触った右手の小指の爪は、既に乾燥していた。それを皮切りに今まで行動を制限されていたベラルーシの指先は棚の瓶へと移る。一つ、青色の瓶に触れその色味を直に見つめ選定をしていると背後から声が掛かった。
「その色はちょっときつすぎると思うなあ。左から二番目の、ピンクが良いと思うよ」
 誰、と言う意味など持たない。この部屋にいるのは自分以外にたった一人しかいないのだ。自分が兄と慕いながらも、この人がいれば自分は他に何も要らないとさえ思ってしまう、大切な大切な人。兄さん、と彼の名を表す代名詞を口癖のように呟きベラルーシは指先の小瓶から顔を上げ振り向いた。
「おはよう、ベラ」