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片恋プレリュード

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夏も過ぎ、暑さも遠のき、葉を色付かせる、秋
太陽も大分上がりきったお昼頃に、都内にある来良学園では生徒達が各々思い思いに時間を過ごしていた
が、――そんな穏やかな時間に、

一つの破壊音が、広い敷地内に大きく響いた




一際大きいその音の後に、続けて別の破壊音が続いていく
その音に一瞬誰もが動きを止めたが、直ぐに気にした風も無く昼休みを過ごし始める
しかし、その破壊音から遠くに離れようとするのは忘れない
教師もその音のもとへ行こうとはせず、『あぁまたか』と溜息を吐くだけだ

そう、“これ”はこの学園に通う生徒にとっては“日常”となってしまっている




「臨也ァァァァアアアア!手前ェ…俺の前から消えろ!」
「五月蝿いなぁ……それならシズちゃんが消えればいいじゃない」

二年、平和島静雄
そして同じく二年、折原臨也

この学園内だけでなく池袋の街でもでも有名な、最強で最凶な二人
その二人が今日も、最早“喧嘩”と呼ぶには生温い、そう――“戦争”に近いものを、学校という名の戦場で繰り広げていた





机が飛び、椅子が叩きつけられ、窓ガラスがばりんと砕ける
勢い良く投げられたごみ箱が宙を舞い、臨也に向かって弧を描きながら落ちていく
それを臨也はさらりと無駄な動作なく交わすと、端整な顔に嘲笑とも侮蔑とも言える笑みだけ浮かべた

(あぁ、邪魔だなぁ早く死んでくれないかなぁシズちゃん)

胸中だけで舌打ちをし、怒声と共に投げられる物を避けていく
ばりん、とまた窓ガラスが派手な音を立てて割れた

(さっさと逃げよっ……と)

臨也は黒板消しを手に掴むと、振り向きざまに静雄に投げつける
それは見事に命中し、色味の付いた煙が静雄を襲った
静雄がチョークの粉で咳き込んでいるうちに、臨也は二階の廊下の窓の縁に足をかけると躊躇なく飛び降りグラウンドへと着地する
耳に届いた女生徒の悲鳴も静雄の怒声も落ちてきた椅子も無視して、直ぐに校舎の裏へと駆ける
力は静雄に叶わないが、走りは臨也の方が上だ
校舎の裏側、紅、黄色と美しく葉を色付かせた木々が立ち並ぶそこは、普段なら学生がお昼ご飯を食べたりしているが、今目の前には人一人いない
恐らく、静雄と臨也の“戦争”で響く音を聞いて退散したのだろう
まぁ恐怖と好奇の入り混じった目で見られるかはずっとましだと臨也は一つ息を吐いて、視線を遠くにやった

臨也から数メートル離れた、赤く色付いた木の下
そこに座り込んでいたのは、深い浅葱色の制服を纏った、一人の男子生徒だった




(?なんだ、人がいたのか)

赤みがかった眼を細めてその生徒を注視する
同じ学年では見たことはない、とすると一つ下だろう
漆黒の短く切られた髪が風の中で小さく揺れている
しかし遠目でも分かるほどに幼い顔立ちをしている彼では、制服を着ていなければ中学生と間違われても可笑しくはないだろう
当の本人は臨也の視線に気付くこともなく、大きな双眸を膝の上に置かれた本に向けていた


(……普通の、人間、だよな)


平凡で、普通の高校生
臨也が愛する“人間”の一人
ただそれだけで、それだけのはずで、それ以下でも以上でもなくて
――しかし、眼を離すことが出来ないのは何故だろうか


この、胸中に沸き起こってきた感情はなんだろうか




今までに抱いたことのないそれは微か、ほんの微かだがどこか苦しくて、でも優しい
初めて抱く不可解な感情を訝しく思いながら、臨也はじっと子供を見ていた


(なにこれ……意味わかんない)


臨也は分からないことが嫌いだった
理解できないことが嫌いだった
だからこの感情も嫌いだった
だけど、だけど、視線を逸らすことが出来なかった


彼のことを知りたい、そう思った



作品名:片恋プレリュード 作家名:朱紅(氷刹)