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片恋プレリュード

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すると、それまでずっと本に向けられていた子供の視線が上げられた
真っ直ぐすぎる視線が、臨也を貫く
それに思わず後ずさる臨也を見て、子供は不思議そうに首を傾げた
本を閉じ、制服を軽く叩きながら立ち上がると、鞄を手に持ち一歩一歩と臨也に近づいてくる
近づく度に先程よりもはっきり分かる幼顔、細い肢体に、大きな双眸
半径一メートル以内まで近づいてきた子供の、その眼に吸い込まれそう、なんて馬鹿みたいなことを割りと本気で思った

「……の、あの」
「え、は……なに?」
「いえ、あの…その、勘違いだったらすみません。僕のこと…見ていましたか?」
「っそ、れは…」

自分が不利な状況にあったとしても、言い訳も取り繕うことも余裕だった
しかし今はまともに言葉を紡ぐことさえ困難で
らしくない自分に対する苛立ちや真っ直ぐすぎる視線に対する羞恥に耐え切れず視線を逸らし、本日二回目の舌打ちをした
それに子供が肩をびくりと振るわせたのを認めて、臨也は「あー…」と気まずそうに頬を掻く

「…ごめん、別に君に怒ってるわけじゃないから」
「は、はい」
「その、君さ……」


名前は、そう呟いた言葉は、直ぐ近くで響いた破壊音に掻き消されてしまった
音の発生源へ二人の視線が向けられる
そこに佇んでいた人物を見て、臨也は漸く自分が此処に来ていた目的を思い出した

「いぃぃぃざぁぁああやぁぁぁあああああ!!」

視線の先、そこにいた人物――静雄は、まるで地獄の底から響く様な声を辺りに轟かせる
親の敵と言わんばかりの眼光で臨也を睨みつけると右手で軽々と掴んでいるベンチを抱え上げ、数メートル先の臨也に向かって投げつけようとした
その時静雄の眼に、臨也の直ぐ傍らで立ち竦んでいる子供の姿が映り込む
ぎょっと眼を瞠った静雄は、慌てて右手に込めていた力を緩めようと全ての意識をそこに集中させた
不本意ながらも爆発させることは簡単だったが、未だ制御することは苦手であるこの力
それでもなんとか力を制御し、ベンチを離しかけた手の動きを頭上近くで止める
肩で息をしながらベンチを足元に投げつけると、がしゃんと盛大な音を立て無残な姿となってしまった
びくり、また子供の細い肩が揺らし、こそこそと臨也の背後に隠れる様に足をずらす
その動作に臨也は軽く瞠目すると、なにか言葉を掛けようと薄い唇を開いて、閉じた
変わりに静雄に向き直って、顔に性悪な笑みを浮かべた

「…ははっ!なにシズちゃん、それ投げないんだぁ。俺には色々とぶつけてくるくせにねぇ」
「っせぇ!!んなの…当たり前だろ」
「ふぅん……面白くないなぁ」

子供を挟んで対峙する、最凶と最強
挟まれた子供は二人を交互に見つめては、幼顔に困惑を浮かべている
しかしふと臨也の手に走る傷を見て、少しだけ大きな瞳を瞠目させた

「あの…折原先輩」
「ん、なに?てか俺の名前知ってるんだね、嬉しいなぁ」
「そりゃ…先輩方は有名ですし」

臨也の言葉に軽く返すと、子供は鞄を開きなにかを取り出した
「あの、これを」と手を差し出され、臨也は小首を傾げながらもそれを受け取る
かさりと小さく音を立てて渡されたそれは、一枚の絆創膏だった

「怪我してるみたいなので……お節介だったらすみません」
「え、いや、その………ありがとう」

ぽろりと素直に漏れたお礼に、傍の静雄だけではなく臨也自身も驚いた
あの、捻くれた俺が、素直に礼?そんな馬鹿な
ぐるぐると思考が渦巻き、まともに言葉も吐けずに固まってしまう
そんな臨也の心境に気づくこともなく子供は安堵の息を漏らすと、視線を静雄に向けとたとたとそちらに駆け出した
静雄はぎょっと身体を強張らせ、その小さく細い体躯を凝視すると、子供は小さく笑んで手を差し出す

「平和島先輩、」
「え、あ、あぁ?」
「あの……先輩も、もしよければどうぞ」

そう言って静雄にも一枚の絆創膏をそっと差し出す
静雄は暫くそれをじっと見つめていたが、子供の「先輩…?」とい声にはっと我に返る

「あ、いや…わりぃ。ありがとうな」

小さなそれを受け取り、ぎこちない笑みを浮かばせる
子供は一瞬きょとんとしたが、直ぐにそれは優しい笑みに変わる
それに静雄は勿論のこと、二人のやり取りを不満気に見ていた臨也の心臓も、どくんと高鳴った

「…やっぱり、人から聞く話ってあてになりませんね」
「え?」
「……?」
「先輩方の話って怖いものしか耳にしないから、正直怖いなって思ってたんですけど…」



本当は、ずっと優しいんですね



だから安心しました、と笑う子供の言葉はもう把握出来ない
優しい、俺が?
二人同時にそんなことが頭に浮かんでは、いやいやと自己否定する
しかし一方の子供は気にした風もなく笑みを浮かべたままだ

「あ……僕そろそろ」
「へ、あ、あぁ…もうすぐ昼休み終わるね」
「はい、それじゃあ失礼します」
「じゃあ、な」
「うん…バイバイ」

二人の挨拶に子供は一度双眸を瞬かせると、「さようなら、です」と微笑んで、二人に背を向けて歩き出した




色を変えた葉が舞い散る木々の下
昼休み終了のチャイムが鳴り響く中、そこに取り残されたのは、些か季節遅れな感情を芽生えさせた、来良学園の最凶と最強だけだった



(シズちゃん…まさかと思うけど)
(…うるせぇ)
((あーもう、最悪!))




(名前も知らない君に、恋をした)

作品名:片恋プレリュード 作家名:朱紅(氷刹)