窓 と 扉
「はい。私、鏡音リンです。はじめまして」
ためらいがちな表情が引っ込んで、彼女は一歩引いて、しゃんとした。
小さくて無邪気だけれど、仔猫と言うには雄々しくて。歩き始めたばかりの虎のように、愛くるしく力に満ち満ちている。
直感で悟る。
この命は、強い。
片割れとは、鬼ごっこをしていてはぐれたのだと言う。
鏡音リンは、僕より後に生まれたボーカロイドなのに、僕より闊達だった。
お互いがお互いのサンプルになるような、対の存在が居るから?
確かに、いつも鏡を見て暮らしていたら、自分のことはよく見えるだろう。
しかし、僕と彼女の違いは、それだけでは無い気がした。なぜだろう。僕がクリプトン製のボーカロイドでは無いから?
製作元が違っていても、性能に大した違いなんて無いのよ、とMEIKOは言っていた。僕はそれを鵜呑みにしていたけれど、実はこれは、大きな問題なのだろうか?
挨拶と、少し話をしただけで、じゃあレンを探しに行くから、今日はごめんね、と少女は再び謝った。
あっという間に背中を向けて、駆け出す。うさぎのようなリボンが跳ねる。
彼女と別れた後、僕は僕の世界のささやかな変化に気付いた。白い僕の世界が、何故か灰色に見えて。
ただ穏やかだった世界。
それを初めて、寂しい、と思ったのだ。
END