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窓 と 扉

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 僕と近い時期に生まれた鏡音のことも、よく知らない。鏡音達も、まだ赤ん坊なのだから、仕方が無いと思う。

 そう思っていた。
 思うだけで、僕の世界には何もなかった。

 MEIKOは僕達の中で誰よりも人間に近くて、とても参考になったし、一番ユーザーに支持されている初音を見ていると、人間に愛される条件というものが見える。
 彼女たちとの時間は、ただ穏やかだった。
 僕は僕の世界から出たいとまだ思わないから、彼女たちが来るのをただ待つのも、好きだった。
 僕だけの時間も、ただ穏やかだった。

 そんなある日、鏡音の双子から、初めて接触があった。
 二人で遊びに行ってもいいか、という問いかけだった。初音より幼く、伸びやかな声。
 二人と言っても最初の一手が、レンではなくリンが行ったことから僕は、ああ、やっぱり女性のほうが積極的なのだな、と思いながら、その申し出を気安く受け入れた。
 僕はどうやら受動的な性格らしい。


 しかし、約束の時間になっても、いつまで経っても鏡音達は現れない。
 どういうことだろうか、と考えながら待った。
 無闇に探すと樹海で迷う、という知識の元、僕はただ待った。
 待つのは慣れている。ただそこに居て、何も変わらず時間が過ぎるのを待つだけのことだ。
 MEIKOなどは「待たされるのは嫌いなの」と言うが、僕にとっては何も苦痛どではない。

 待つうちに、僕はいつの間にかスリープモードに入っていたらしい。うたた寝、というやつだ。

 小さな声に意識を呼び戻される。
 すみません、という言葉を認識する。
 眼を開けると、視界いっぱいに広がる金色。


 光。


「あっ、……すみません」
 すみません、という言葉の割には、なんだろうこの距離は。
 どうやら僕は驚いていたらしい。その金色の塊……金髪の少女は、僕の表情を見て、とてもすまなさそうな顔をした。
「ごめんね、気持ちよさそうにしてたのに、起こしちゃった」
 この間読んだ小説は、主人公が朝日に眼をすぼめるシーンから始まった。まぶしいというのは、こういう体験だろうか。なんだか眼の奥が痛くなるような感覚だ。
 しかし、それにしてはおかしいな。
 痛みというのは、不快のひとつではないのか?
「……君、は、鏡音?」
 来客の約束をしていたのだ。僕はぼんやり訊ねた。
作品名:窓 と 扉 作家名:nanc