輪廻の果て
一話
池袋の雑踏。人々がひしめき合い、出会っては去っていく都会の真ん中。
臨也はただぼんやりと人の間をのらりくらりと歩いていた。眉目秀麗を具現化した容姿を持った臨也に誰も気がつかない。
けれどそれは臨也がそうしていることであり、彼自身の能力でもある。
臨也は人ではない。はてなき最古の時代より存在するいわば人外。人は畏れて彼らをこう呼ぶ、『妖怪』と。
その中でも臨也は特別だった。妖怪の中でも一際長く存在し、圧倒的な力を持つ存在。妖怪の長と言われるぬらりひょん。
誰も彼の姿を見ることは叶わない。そう、彼が望まぬ限り。
臨也は人が好きだ。人を見ることが好きだ。それは博愛に近い物なのかもしれない。けれど、それは過去の己であり過去の思考。
今の彼は違った。たった一人、あの魂を持つ人間を捜していた。だからこうしてたびたび人の世界に現れる。そして、探す。
もしかしたらこの時代にいるのではないか。もしかしたらこの町で出会えるのではないか。ずっとずっと。
あの平安の時からずっとずっと。探し、待ち、焦がれ続けた魂の片割れ。
けれど・・・。あれから二度とあの魂を持つ人間には会えなかった。
妖怪と人の時間軸は大いに違う。違いすぎる。決して交わることのないその時の溝の大きさにどんなに涙をこぼしたことか。
二度と会えないのではないかという虚無感と恐れ。もしかしたら今度こそ見つけられるのではないかという期待と希望。
その両極端の感情にいつも臨也は悩まされ、励まされ、苦しまされてきた。
「ねぇねぇ知ってる?ダラーズがまたやったらしいよ!」
「知ってる!今度はどっかのカラーチームとやりやってさ、すっごい抗戦だったらしいけどまた勝ったんでしょ?」
「さっすが池袋最強!」
時々この池袋の人々から紡がれる『ダラーズ』という言葉。臨也は小首をかしげて見せた。
そんな抗戦見たことないし、ましてそんな大きな物だったら自分が気がつかぬはずがない。
ダラーズというものそのものが存在していないはずなのに、ここの人々はこぞってダラーズという。
(ダラーズねぇ・・・)
臨也は軽い足取りで、池袋の雑踏へと消えていった。