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輪廻の果て

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七話





「いざやさっ・・・・?」

「逃げよう、帝人くん」

臨也は帝人を抱きしめたまま、その小降りの耳朶に直接ささやく。帝人が臨也の背中に腕を回し、その背中にすがりついた。
それを合図に臨也は帝人を抱きかかえあげ、帝人の局を出て欄干に足をかける。

「臨也さんっ」

未だに困惑し、涙で濡れる瞳を向けてくる帝人に臨也は最大級の笑みを見せた。

「安心して。俺が必ず君を浚ってあげる」

帝人の顔がまたくしゃりりと歪み、臨也の首に腕を回した。たぶん泣く顔を見られたくないのだろう。
臨也は帝人を抱えなおすと、そのままいつものように空へと舞い上がろうとした。
しかし次の瞬間、臨也の真横から光の線が飛び出してきた。間一髪で臨也はそれを交わし、屋根に飛び乗る。

「・・・ぞくぞくと・・・まるで鼠だね」

臨也は自分から帝人の頭を己の肩口に押さえ現れてきた術者達を帝人には見せないようにした。
術者達は何か言霊を呟きながら、一斉に弓矢を放つ。臨也はそれを突風を吹いてなぎ払う。
一人の術者が臨也に吠えた。

「我らの巫女を返せ!妖怪!」

それを気に、一斉に吠え出す術者達。臨也はさきほどから震えている帝人をあやすようにぽんぽんと頭をたたいてやる。
下にいる術者達には聞こえないように、帝人にささやいた。

「・・・守るから・・・俺を信じて」

帝人は健気に震えながら、こくりと臨也にしか解らない程度にうなずく。
臨也はした一面に広がる有象無象の人間を見つめ、にやりと口角をあげた。

「返せ、だと?笑止。お前達がこの我を誘ったのだろう?この女を贄にして・・・。
なればこの者は我の物。我がどうしようとも我の勝手」

「ふざけるな!我らの巫女がお前達下卑たる者に負けたはずがないだろうっ」

臨也は喉で嘲笑う。すると先ほどまで天井に輝いていた月が雲に隠れ始め、辺りが闇に包まれる。
光が隠れたことにより、臨也の瞳が紅く底光りした。その赤のなんとまがまがしいこと。
術者達は恐ろしさのあまり後ずさる者、または腰を抜かす者まででてきた。
臨也は内心、こんなものかと興ざめする。
こんな弱者のために、帝人は今までずっとその強大な力を使ってきたのか。

(なんとももったいない・・・)

臨也は一瞥をくれてやると、雲に覆われた空を見上げる。タダの人間にとったらこれは曇天にしか見えないのだろう。臨也は帝人をもう一度抱えなおすと、声を張り上げて叫ぶように告げた。

「聞け、愚かな人間。この我、妖怪の長ぬらりひょんをたぶらかそうとした罪、重いとしれ。
その代償にこの巫女は我が頂いていく」

「な!?ふざけるなっ」

「ふざけてなどおらぬさ・・・」

臨也は帝人を抱きしめると、何かを呟き始める。そのつぶやきにいち早く察したある術者が急いで弓矢を飛ばした。けれど、

「ぐわぁっ!?」

「なんだぁぁっ!?」

「ひぇぇぇぇっ」

辺りを突風が吹き荒れ、小石やら砂やらが術者を襲い始めた。
臨也は人間相手に日頃の鬱憤がたまっていた同胞達の少しばかりやりすぎた感じもある戯れを見なかったことにして、その自慢の脚力で一気に空高く舞い上がる。

「まてぇぇぇっぬらりひょん!」

「返せ我らの巫女様をっ」

風だけでなく砂や意思にも邪魔されながら必死に叫ぶ人間を顧みながら臨也は、なんとも醜いなぁと思った。
そのまま臨也と帝人は暗い闇へと姿を消す。



作品名:輪廻の果て 作家名:霜月(しー)