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【イナズマ】赤いきつねと円堂守

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「俺ね、はぐれ稲荷なんだ。宿無し。行くとこないんだ」
「はあ……」
「だからね、守のところに置いて欲しいんだ。駄目かな?」
「だめ……っていうか……」

目の前ではぐはぐとインスタントラーメンを食べながら、『これは美味しいねえ』などと言っている赤毛の少年の口から出た、『はぐれ稲荷』という言葉の意味を円堂守は掴み損ねて眉を寄せた。
少年の服装は少々汚れた、けれど所謂巫女や神主が着る袴姿で、確かに『普通の』とは言いがたかったが、喋り方も容貌も一見普通の、今時の少年である。
……頭に生えた、大きな耳さえなければ。

「…はぐれ稲荷…」


円堂守は現在春休み真っ只中の14歳である。
勉強は少し苦手で、けれど元気とサッカーに対する情熱は誰にも負けない、性根のまっすぐなどこにでもいるごく普通の少年だ。
自身がキャプテンを勤めるサッカー部は春休みでも活動しているが、今日はたまたまグラウンドの事情で練習は午前だけだった。
珍しく、夕暮れ時一人で留守番をしていた円堂の元に、唐突にこの少年は現れた。
インターホンの音にいつもの癖で、不用意にドアを開けてしまったのがいけなかったのだ。
奇妙な袴姿の少年は円堂の顔を見るとにっこり微笑み、ずかずかと部屋の中に入り込んできた。
円堂が何も出来ず、呆気に取られてしまったのは、少年の頭に大きな一対の耳が生えていたからだ。
はっと気づいたときには少年は勝手に部屋の中をうろうろしており、慌てて追い出そうとする円堂にも構わず、きょろきょろと辺りを見回していたのだが、突然ぱったりと倒れてしまった。

ビビった。

大らか過ぎる、と周囲から言われている円堂も流石に慌てて、警察か、いや、救急車かと電話を取ったその時だった。
後ろからのしっと圧し掛かられて声にならない悲鳴を上げる耳元で、

『ごめん……なにか……食べさせて……』

と、弱弱しく囁かれた声に、何故だか円堂は逆らえなかった。
結局インスタントラーメンを作って差し出した自分は、相当なお人よしか、それとも頭がどうにかしてしまったのだろうか。
ぺろりと一杯平らげ、さらにもう一杯を所望する少年に、『お前は誰だ』と訊ねると、彼はけろっとした顔で『お稲荷さんなんだ』とのたまった。

そして、冒頭に至る。


「……はぐれ稲荷って……何だ?」
「お稲荷さんは解るかい?」
「えーと……狐の神様……だよな?」