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【ギルエリ】 遠い約束

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「寄せては返す・・・・・、祈りの声と一緒にいっつも聞こえてたんだ・・・・・・ざざーって、この風の音みたいな音でさ。繰り返し、何度も何度も寄せては返すんだ…音が・・・・・・。」

また風が耳元を通り過ぎる。
草の上を通る風の音は、静かな夜の静寂の中、流れるように響いていく。

「波の音か・・・・・・・・・・・・・・。
うらやましいな・・・・・・。」

ぽそりとつぶやいたエリザベータの声をギルベルトは聞き逃さなかった。

「なにがうらやましいんだ?!まあ、俺様みてると、なんでもうらやましいだろーがよ!」

(ちっ!なんだよ!こいつ!!人が真剣に聞いてやってんのに!)
エリザベータはとたんにいらっとする。

「お前・・・・、そういうところ直せよ・・・・・。」

「で、なーにがうらやましい?」
もうギルベルトはいつもの皮肉にくちをゆがめた表情にもどってしまっている。

(おしいな・・・)
とエリザベータは思う。

(黙っておとなしくしていれば、こいつ、少しはかっこいいかもしれないのに・・・。)

「なあなあ!!なーにがうらやましいんだよ!?!」
ギルベルトがにやにやと聞いてくる。


(こいつまたけんかふっかけたがってるな・・・・。めんどくせーなー・・・。)
絡んでくるとき、いつもギルベルトは剣の勝負をしたいのだ。

(こんな夜中に剣振り回して、音が響いたら抜け出したのばれちまうだろうが!!)

でも答えるまで、こいつは話をふってくる。
あきらめてエリザベータは答える。


「ああ・・もう・・・・めんどくせー・・・。
俺は自分が生まれたときの話なんて聞いたことねーし、海もまだ見たことないからな・・・・。行ってみてーなって思っただけだ。」

「なんだ、お前海みたことないのかよ!!」

「そういうお前だって、実際は覚えてんのかよ!」

「俺様は覚えてるぜ!なんせ波音だって覚えてたんだかんな!」

「じゃあ、海はどんな色して、どんなもんなんだよ!」

「ええっと、それは・・・その・・・」

「言えねーんじゃねーかよ!そんなんで、覚えてるなんて言えっかよ!」

「うるせー!覚えてるったらおぼえてるんだよ!俺様の記憶にまちげーはないんだ!!」



ぎゃーぎゃーといつもの言い争いになる。

どうでもいいことまで引っ張り出しての口論。

くだらない口げんかをして、いい加減、二人とも疲れ果てたころ・・・・・・。



「いいなあ・・・・。」
ぽそりとエリザべ―タがつぶやく。

「海の音か・・・・・・・・。
この草原の音に似てるのかあ・・・・・・。」



神妙な態度になったハンガリーにギルベルトも、真剣に答える。

「ああ・・・・・。ずっと・・・・・ずーーーっと繰り返して聞こえるんだ・・・・。
まるで・・・・祈りの声みたいに・・・・詠唱がかさなっているみたいにさ・・・・。」



二人は黙って、風の音を聞く・・・・・・。




ざああ、ざざざ、ざああ、ざざ・・・・・・・・・・。



風がやさしく平原を流れていく。






「ハンガリー・・・・・・・・・・・
・・・・・・・・あのさ・・・・。」

「なんだよ?」

「あの・・・・・。」

「だからなんだよ!」

もごもごとつぶやいていたギルベルトが大声で叫んだ。

「行こうな・・・・・!!」
「はあ?」
エリザベータはきょとんとしてしまう。


「いつかさ・・・・・。」

「?・・・・・。」

「海・・・・・行こうぜ・・・・・。」

ギルベルトが顔をまっかにして言う。


「ああ・・・・。行きたいな・・・・。」

「いや、絶対行こーぜ!!」

いきなり真剣になるギルベルトにエリザベータは噴き出してしまう。

「なんだよ、お前。急にさ。」

「行こーぜ!一緒によお!お前に見せてやりたいんだよ!!
海ってお前の目玉みたいに、緑になったり青になったりするんだってよ!!」


「へえ・・・・。そうなのか・・・・・・。ってなんでい!俺の目玉ってよ。」

ギルベルトがプイっと横を向く。

「きれいなんだそうだ・・・・・。」

「・・・・・・・・・え?」

(何言ってんだ?こいつ。)
真っ赤になって横を向いたままのギルベルト。



「海はきれいなんだってよ・・・・広くて、大きくて・・・どこまでもどんな国ともつながってて・・・・。」

「・・・・・・・・・・。」

エリザベータはギルベルトを見つめる。

(ひょっとしてほめてるのかな・・・・俺のこと・・・。)

ギルベルトは真剣な顔になってエリザベータのほうを向く。



「行こうな・・・・・いつか・・・。」

「・・・・ああ・・・・・。」

エリザベータもギルベルトを見返す。

二人は顔を見合わせる・・・と同時に噴き出した。



(何言ってんだ!俺たち!!海なんて、えらく遠いじゃないか!!
大人になるまで、行かせてもらえないだろうなぁ・・・・・。)


ギルベルトもそう思ったのかもしれない。

どかりと草の上に腰を下ろすと、いつもの尊大な態度で言った。


「さあ!!今夜こそ、星が流れんの見るぜ!!今日は絶対に眠っちまわないよにすんぜ!」

「おう!先に寝ちまったら、ぶんなぐって起こすからな!」

「ぜってーに、俺様は、ね、な、い!」

「へん!そんなこと言って、昨日そっこうで寝ちまったのはお前だろうが!!」

「なに〜〜!!お前こそ、大口開けて涎垂らして寝てたじゃねーか!!」

「俺がそんな寝かたするか!!お前じゃあるまいし!!」

「なんだと!!そんなら、勝負するかっ!!先に寝たほうが、ぶんなぐられた上、厩の掃除ずっとすんだぞ!!」

「おお!!受けてたってやる!!ぜってー、勝つけどな!!」



また口論になってしまった。


これには、ギルベルトの照れ隠しもあったかもしれない。


夜が深まっていく中、また二人の間に静寂が訪れた。

寝っころがったギルベルトから、すやすやと寝息が聞こえる。



「やっぱしお前のほうが、先に寝るんじゃんかよお!!」



にやけて眠るその体を蹴飛ばそうと、のばした足を、エリザベータは引っ込めた。

なぜか、今だけはこいつを寝かせてやりたい気がした。

(遠い異国で生まれて、まだ記憶もないままに、俺の国に来たこいつ・・・。生まれたところの波音だけ覚えてるこいつ・・・・・。)




「海の音は、この草原の音・・・・・か・・・。」


静かに風が通っていく。

空には満点の星。

月が照らす草原を渡る風。

エリザベータはいつまでも、風の音を聞いていた。
ひいては寄せる、寄せてはひく、
静かな草原の風音を。


いつか、一緒に。

海を見るんだ・・・・・・・・。



作品名:【ギルエリ】 遠い約束 作家名:まこ