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Stop!Brother-in-low!

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つい先日までの巨人の進撃などなかったかのように。地上では人の活気と声に満ち満ちていた。
村外れにある古代遺跡の巨大な瓦礫を長テーブルにみたてて、そこを懸命に水拭きをしたりしている娘がいると思えば。
端切れを縫い合わせた大きなテーブルクロスを敷ている主婦たちがいる。
男たちは破壊されつくした家々から木材を持ち寄って椅子を作る。
森へ木の実を採りに行った子供たちが帰っていたらしく、急に騒がしくなる西に。
「酒蔵が無傷のまま残ってたぞ!中の酒は無事だ!」 との大声におぉとざわめきがあがる東に。

あっちへこっちへ賑やかに人が行き交う中、一人、石の上にぽつねんと座っている女の姿があった。
白い布を幾重にも重ね、縫い合わせたドレス。淡い色をした生花を、頭にも衣装にも挿している。俯いているので、顔が陰になっているので表情はよくわからない。道を行き交う人が彼女の前の通り際

「おめでとうございます」
「そのドレス、とてもお似合いですよ」
「あなたのお幸せを心よりお祈り申し上げております」

と口々に言って頭を下げても

――ありがとうございます

ただ一言のみしか返さない。
では、この女は不機嫌なのか、悲観に暮れているのかと思えばそうではなくて。
鸚鵡返しの言葉がどことなく弾んで聞こえるのだった。


即席の椅子が、机に見立てたテーブルに並べられる。ちぐはぐな色のテーブルクロスの上に、次々置かれる料理に飲み物。中央にはいつ穫ったのやら、大きなイノシシの丸焼きがあった。
村の者たちがめいめい席に着き始めた頃、あの女が上座につく。先程よりもやや顔の位置が上になっており、口元が太陽の光にさらされている。
彼女は、広角をややあげて、微笑んでいるようにみえた。


わいわい、がやがや。飲んで食べて騒いで。賑やかさはとどまることを知らない。
村の娘が上座に二つ並んでいた杯に酒を注ぎ、女がそれに感謝を表すためか軽く頭を下げた。

その時。
「花婿が来たぞー!」声が挙がる。
わぁ、と沸き上がる歓声。弾かれたかのように頭をあげる女……否、フレイヤ。


「遅ぇぞ!」
「もうとっくに宴は始まってんだよ!」
「未来の女房待たしてなにやってたんだ、この色男!」
「花嫁よりも準備の遅い花婿なんざ聞いたことねぇや!」
「ほら、早く行けよ!今日の主役なんだろ!?」


笑い混じりのヤジが飛び交う中、村の方角から遺跡に向かって歩いてくる人陰がある。……シグムンドだ。
ツンツン頭に、鋭い眼光、日に焼けた肌は相変わらず。ただ、いつもの北の民らしい毛皮に、鎖かたびらを纏った装いではなくて。
宝を守護する伝説の竜……の羽や鱗をモチーフとした、黒い鎧を身につけていた。
陽光が当たる度にきらきらと妖しく光るそれは、人の手で造られたものではない。地下の国の小人たちが作り上げたものだ。
ゴートやブルグンドの一流の鍛冶屋でも、同じものはまず作れないだろう、装飾の細かさに美しさ。

花婿は、やれ動きにくいだの、やれ肩がつっぱるだの。着心地が悪いようで、鎧のあちらを引っ張りこっちをひっぱり。周りの喧噪などどこふく風で歩いている。
その三歩後ろを「シグムンド!おいちょっと待て!何でその鎧には継ぎ目がないんだ!」 と、いつものキャラをかなぐり捨てて、大声で喚くヴェルンドと。
「しらねぇよ〜……。あの手の鎧は、みんなああなってんじゃねぇのか?」気弱な声で言いつつ、暴れるそれを羽交い締めするヘルギの姿があった。

――シグムンドっ!

フレイヤは、席を立つと、放たれた弓矢のように勢いよく走り出した。
そして、軽やかに飛び跳ねるとシグムンドの首にすがりついたのである。
すかさず花婿がそれを抱き留める。拍子に、髪に挿した数本の花がふわりと地面に落ちた。

――シグムンド……っ!

地に足を着けた花嫁が、腕を緩めて相手と目線を合わせる。
顔と顔との距離は、互いの鼻がくっつくぐらい、近い。

――フレイヤ

巨神族との戦いの第一線で剣を振るっていた勇士、とは思えないぐらい。シグムンドは呆けた声を出した。

――なんですか?

――フレイヤ、きれいだ。

まっすぐ相手の目を見、きっぱりと若い族長は言い放つ。
途端、花嫁の頬が一気に朱に染まる。
真後ろのヘルギは……ヴェルンドが落ち着いたので戒めを解いてやったらしい……肩を潜めて呟いた。
「シグムンドがあんなこと言うの、俺、初めて聞いたぜ……」

――シグムンド

彼女はそういうと、目を下に泳がせた。が、すぐに視線を元の正面に戻したのだった。

――なんだ

――シグムンドこそ、凛々しいですよ

はにかみ、甘い声で囁くアスガルド随一の美人。
今度は、シグムンドの頬が真っ赤になる番だった。
「うわっ……」 呆れとも驚きともつかないこの声は、ヴェルンドの口から出たものである。

シグムンドは暫くの間、あーだのうーだの言葉にならないうめきをあげていたのだが。
頬の赤みも引いた頃、急に真剣な顔をしてシグムンドは言ったのだった。

――フレイヤ……最後に聞くぞ。本当に、人間の俺でいいのか?おまえの容姿だ。神々の男共はきっとお前のことを

――何度も言わせないでください。私は、時が許す限りあなたの隣にいたいのです。シグムンドこそ、女神を嫁に迎えたりなんかして。後悔しても知りませんからね?

――よく言う。結婚を申し込んだとき、うれし泣きをしたのはどこの誰だ。

――さぁ。そんな昔のこと、忘れてしまいました

二人は目線をあわせた。そして、同時にくすりと笑うと。ごく自然に顔を近づけて、あっさり唇をくっつけたのである。
一瞬あたりが静まり返る。そして、すぐさまワーッと爆発する歓声。はやし声があちらこちらから聞こえ、拍手まで起きる始末だ。

場の雰囲気を盛り上げるために、わざと大勢の前で口づけをやるようなシグムンド・フレイヤではない。
おそらく、周りのギャラリーのことなんて忘れていて。すっかり二人の世界に没頭しているのだろう。

(神も、人間も。恋をすると、周りが見えなくなるものなのだな……)

などと、鷹の姿のフレイはため息をついた。彼は、遺跡の周りに生える背の高い木にとまり、事の一部始終を見ていたのだ。


一昨日の夜。

――お前の妹をもらうぞ

と、シグムンドに言われた。
他の男に同じ事を言われたら、剛力絶打の大槌でボコボコにしてやる所だったが。相手はあのシグムンドである。奴がどれほど優れた人間であるかは、この戦いで重々承知済みだ。
いつ妹とそんな仲になったのかは存じないが、この男になら任せても大丈夫だろうと直感に判断した。
だから握手をして、頼んだぞと言ったのだ。

(愛の女神の夫に恥じぬ振る舞いをしろ……と)

餞別だと言って、シグムンドに鎧を託したのはその次の日。
妹の晴れ舞台ぐらい、美々しい格好をしろとの小言付きで、矢も剣も通さない神の装備品を手渡した。

(お前もう小舅気取りか、と笑われたな)

そして、今日の朝早く、アスガルドに帰ると告げたのである。
すべてが終わったので、オーディンの御元に戻らねばならない、と。

――兄様・・・お元気で。
――気が向いたら遊びに来いよ。
作品名:Stop!Brother-in-low! 作家名:杏の庭